2. 私たち

投稿者: ゆきお

3年前のそのときの、絵里の目の輝き、そして、と屈託なさを装った「ゆきおくん、まだ、私に他の人とエッチさせてみたいって思ってる?」という一言を今でも私ははっきりと覚えている。

それから今まで3年の間に、そのときには想像もできなかったいろいろなことがあった。
それは避けられた運命の不用意なきっかけだったのか、それともそれまでに私たちの中で進行していた避けらないコースのはじまりを告げる言葉だったのか、まだ自分でも分からない。

もしかして、今はそれをこうやって書くことでどうにか、整理をつけようとしているのかもしれない。
しかし最後まで書き切れるのかどうか。

3年前のそのとき私たちはちょうど30代の半ばを折り返していた。
文系の修士の同級生で、そのころからつきあいはじめ、結婚してからそのときでもう7年。

実は、私たちは入籍はしていない事実婚の形だった。
ただ、役所に届けていないというだけで、内輪だがきちんとしたパーティーをし、親戚知人にも報告して、周りからは正式な夫婦とみなされていた。
事実婚の形にしたのは、私と絵里の二人の、政治的といってはおおげさだが考え方によるもので、その点については幸いなことにリベラルの考えを持つ両方の親も納得しており、頭の古い年寄の親戚たちにことさら言わないだけで、友人たちの中にもその事実は知る人は知るくらいな感じだった。

典型的な友達夫婦で、周りからもいつまでも恋人どうしのままですね、と言われるような関係が「夫婦」になってから7年つづいていた。

特に意識はしていなかったが事実婚という形、子供がいないこと、そして彼女もビジネスの一線で仕事しているということが、私たちの生活を若くみずみずしいものに保ち、二人ともそれで満足してる…かのように思えていた。

子供ができたら、入籍はそのときに考えるということになっていたが、そもそもお互い、子供についてはあえて触れることもなく、今の生活を大事にしながら先延ばしにしていた。

そのことがすべて裏目に出ることになるとは、そのときはまったく思っていなかった。
はたして彼女もそうだったのだろうか、と今にして思う。