7. 萌える伏線

投稿者: ゆきお

実は、その「寝取られ」のジャンルを見つけたときに、妖しい興奮を覚えたのには伏線というようなものがある。

それは、絵里が私との結婚生活を始める直前に、他の男と寝ていたという事実を知ったときの、自分の胸の動きである。

絵里と私は、修士の学生のときに恋人同士となり、そのころにすでに肉体関係を持っていたが、私が博士課程を終ってほどなくして結婚するまでには、さまざまな紆余曲折があった。

お互いの生活環境の変化によるすれ違いから、別れたような形になっていたこともあった。
いろいろな波乱のあと、お互い30を前にして、事実婚という形で生活をはじめるわけだが、その離れている間に、絵里が他の男とかなり深い関係なっていたことも知った。

そのことを絵里本人から聞いたのは、私たちがより戻すのを確認する前の話だった。
絵里はそのことを正直に話し、それでも自分を受け入れるのかと、詫びるように話した。

絵里が修士を終えて、最初の会社に入り、そして2年もしないうちに、より有利な職場に転職するときの話で、実はその転職とその男と関係を持ったことにはつながりがあった。

ありていに言えば、転職先となる社の実力者と深い中になったことがきっかけで、有利なポジションでそこへ転職できたということだ。
ただ、その後、その男が別の事情で社を去るということや、二人の間に感情的な亀裂がはいったということで、その男と男女としても別れる形となった。

その傷心が、絵里を私に再び向わせたのは確実だろう。
ただ私はそのことで絵里をとやかく責めたりはしなかった。
ただ彼女が戻ってきたのがうれしかった。

私は、絵里の告白を受け入れ、逆にそのことによって彼女と暮し始める決心をつけた。

その会社を辞めるという絵里の気持を思い留まらせたのも私である。
私は彼女がその会社のそのポジションに今いるという経緯には、強い嫉妬を覚えたが、合理的に考えて彼女がその仕事を投げ出すのはどう見ても得策ではないと考えた。

もしかして、その男と相次いで二人同時に辞めるということに、一蓮托生となることのほうに、逆に嫉妬を覚えたのかもしれない。

いずれにしても、絵里はその職に留まり、キャリアを伸ばしていった。

その事実を知ったことは、私の絵里に対する気持、特に肉体関係の際の気持に影をおとさなかったといえば嘘になるが、そのときの私は、そのことを思い出すことで何かの感情が湧き上がることを、つとめて強くおさえようとした。

そのころの私たちは、別れたという形になっていたから、浮気として責める権利は私にはないと思った。

そして、絵里といっしょに公私とも認められるパートナーとして暮らしはじめられるという喜びのほうがまさっていた。

過去に対する苦い気持をそうやって抑えることに成功したかに思えていた。

「寝取られ」の男たちの特殊な感情というものがあることを知るまでは。