10. 5年の間に

投稿者: ゆきお

「そうだったけね。もう5年くらい前?」

そんなふうに自分で言っあと、30代になったばかりのころの新しいパソコンでのそんな遊び、無邪気にそんなこともしてたな、絵里とのほろ酔いかげんでの会話の中で私は思い出していた。

5年の間…何があったろう?

小さな波風はあったものの、基本的に、友達夫婦としての仲睦ましさはそのままつづいている。

セックスの回数は、あの一時の盛り上りのあと、また確かに減った。
ここ1年くらいは、月に1、2度あるかどうかだろうか。

何より、彼女が忙しくなった。
小さなプロジェクトをチーフとして任されるようになった。
夜遅い日が続いた。
その疲れが性生活に影響していた。

自分のほうはといえば…。
性欲の波や方向はあいかわらず激しく、家でずっと仕事していてむらむらすると日に2度もオナニーすることがつづけば、3、4日は何もなしという日が長く続く。
ネットで仕入れたお気に入りの妄想をおかずにすることも多い。
「寝取られ」の妄想も多いけど、もうずっと、生身の絵里とは切り離されていた。

そして絵里とのセックス自体が、妄想とオナニーと軸とした欲望の中の一つのバリエーションになっていた。
35の男の性として普通なのかどうか。
他人と比べたことがないから分からない。
しかし異常というほどのこともないはずだ。

それ以外の実生活は不思議な充実のしかたをしていた。

二人合わせた年収はあがった。
実は翻訳の仕事の減少とともに私のほうの収入はどんどん減って行った。
絵里の年収の増加はその減少を補い上まわっていた。
合わせると同世代の大企業のサラリーマンの家庭の平均を上回っていたけが、私の収入は、20代のフリーターで結婚できないといわれるラインを下回っていた。

当然起きるかもしれないコンプレックスの感情によるぶつかりあいを、私も絵里もじょうずに避けようとし、それに成功していた。
避ける方法の一つは、忙しく疲れている絵里のために、私のほうが、料理、洗濯、掃除といったほとんどの家事を受け持つといこともあった。
絵里のほうは、私の金にならない学術的な翻訳を応援し、年1、2冊出るか出ないかの仕事に尊敬を言葉をかけてくれて、私のプライドが失われないようにしていた。
私は働いているはずの時間の大部分を妄想とオナニーに費していることもある日があるのを思い、それを恥じながら、彼女の度量に感謝した。

そんなふうに、いろいろ危うい種はありながらも、私たちは心地よい生活を築いていた。

5年の間にもう少し広いマンションに引越した。
私の書斎は少し広くなり、彼女も私のより小さな自分の書斎兼衣装部屋を持った。
私のパソコンも2度新しくなった。
ダイニング・キッチンはより快適になり、そこで二人は、毎晩ワインをたしなむことが多くなった。
彼女が遅くなる日でも、つまみをつくっておき、二人でいろんな話をした。
そして日常の疲れがワインの酔いで心地よい疲れに変るころに寝た。

そんな中で、週末でさえ特にセックスの必要のない日が日常になっていた。