14. 「大事な相談」

投稿者: ゆきお

「何、急にあらたまって。」

「大事な仕事の相談なの。」

絵里が私にそうやって仕事の相談をするのはめったにあることではない。
単なる愚痴だったり、「~ってどう思う」くらいの簡単な質問はすることはあっても、「相談」という形で持ち掛けられたことは過去1回しかない。

「ちょっと、びっくりするかも知れないけど、最後までゆっくり聴いてね…」

その話の途中、驚きのあまり、何度も口を差し挟もうとする私の唇に人差し指をあて、私の言葉を押し止めなががら、絵里は落ち着いた声で最後まで話した。
話は理路整然としてしていたが、その理路整然さ、彼女の落ち着きと、話の内容の極端な意外さのギャップに、私のほうが混乱していた。
その私の混乱した頭でも絵里の説明に次のようなことははっきりと理解できた。

・絵里は今、ある地方都市にある企業の施設のリニュアールにあたって、そこに導入されるシステム(ここいらへんはぼかささてください)の売り込みのプロジェクトを担当している。
・採用の可能性は五分五分だったが、その企業の社長との何回かの面談の中で、内密にある条件を提示された。
・その条件とは、絵里とその社長が何回かの関係を結ぶことである。

「おい、君の会社はそんな枕営業を君にさせるのかい?」

話に憮然とした私はわざと野卑な言葉を使った。

「ううん、会社とは関係ないの。それは私の個人プレー。会社に知れたらたいへんなことになるわ。向こう側も同じ。」

「じゃあ、枕営業を自分からしてるのは君なのか。そんなふうに今まで営業してきたのかい。」

「変なこと言わないで。私はそんなことはしないわ。こんな話は今回がはじめて。」

「じゃあ何で今度はこんなことをするんだい。」

「私、どうしてもこのプロジェクトを取りたいのよ。今の会社に入ってから、このくらいの仕事をやりたいっていうのは夢だった。」
「だからと言って」

「きみには私にとってのその大事さは理解してもらえないかもしれないと思っているわ。」
ビジネスの世界がわからないとあてこすりされた気分でさらに気持が傷ついた。

「じゃあ、ぼくの気持の大事さはどうなるんだい。」

「ぼくの気持っていうけど、私に他の男とエッチさせたいって言い出してたのはきみでしょ。」

「…ん。って言っても、それとこれとはぜんぜん話が違うよ。あれはゲームで…。」

「でも、他の男の人と私が寝てるのを想像すると興奮するって言ってたじゃない。違うの。」

「興奮するのは確かだけど、でもだからそれは妄想なんだから。」

「あら、あのとき、私がOKしてたら、きみは掲示板の募集にメールしてたんじゃない。違う?」

「ん… それはそうかもしれない。でもあの時はあの時。それにあくまでそれは、遊びとして僕の見ている前で、誰か別の男が君を抱くというシュチュエーションの話で、絵里の言ってる話とはぜんぜん違うよ。」

「あら、そうかしら。きみが読ませてくれた話の中には、妻が勝手に浮気して、それを見つけた男が興奮する話とか、わざわざ浮気させて興奮する話もあったわよ。そんなのにも興奮するって言ってた。」

「あったかな?」

「いっぱいあった。」

そう言われると、そうかもしれないと思った。
なにせそのころ一時期は調子にのって、いろんな形の変則的なセックスのものを、自分が興奮するままに、さぐるように絵里に見せたいたこともあるから。

「……」

絵里の的確な弁舌にうまく言い返せずにいる自分がいた。
それを救うようになのか、それとも追い討ちをかけるかのようになのか、絵里は、「ねえ、もうちょっと落ち着いて最初から話し合いましょうよ」とと言うと、いつの間に空になっていた白ワインのボトルを持って立ち上がり、キッチンから赤ワインのボトルを持ってきて、私に差し出して言った。

「ねえ。開けてついでくれる。」