18. もう1週間も

投稿者: ゆきお

いきなり現実を突きつけられ、先程ほどまでの妄想に膨らんだ刺激が萎える気持で、言葉少なくなった私に、絵里は慰めるように、明るい声で言った。

「あのね、私も、まあ、ちょっときみが言ってたみたいに、他の人とエッチしてみたいかなと思ってたところもあるから、これは面白い冒険の機会ね。」

「ほんとかい。」

「ほんとだよ。」

シリアスな話の後、明らかに無理して場をとりつくろうとしているのが分かった。
私のほうは先程までのように、その言葉をつかまえてからかってみることはできなかった。

私は、絵里の顔を、無理に作った微笑みとともに見た。
絵里も、同じようなうっすらとした作り笑いの顔で私を見た。

多弁な私たちの間に、そのとき、言葉では伝えられらない、どうしても言葉にできない何かが通った。

「心配しないで。あちらがどんなことをしたいか、そして私がどんなことはしたくないかについては、話を決めるとなったら、またしっかりと明確にさせるわ。」

「まあ、やるんならそれは最低条件だな…。それでさ、いつまでに返事するの?」

「それが明日が期限なの。」

「えっ! そんな急?」

「それ、いつ出た話なんだ。」

「はっきり申し込まれたのは、先週の金曜日。明日がちょうど1週間めで期限。」

「それまでぼくに黙っていたわけ。」

「何度も話そうと思ったわ。日曜日だって…」

やはりそうだったのか…

「じゃあ、日曜日にあんな話したのは… 会社の飲み会で、同僚の浮気話を聞いたというのは、嘘?」

「半分はほんとう。それはしばらく前に聞いた話。きみに切り出せなくて…。でも、そのときだって、結局、ちゃんと言う勇気がなくて。それにきみ、前と違ってそんなことに興味がなくなっていたような感じだったから、ますます…」

妄想の中で興味がなくなっていたわけではない。むしろ妄想の部分が肥大して、それを生身の絵里と結びつけることが少なくなってきていただけの話だ。
絵里にあらためて指摘されて、絵里が私の中では、以前よりも、自分の自由になる性の対象というより、触れることのできない妄想の対象になって行っていることに気がついた。
自分の妻が魅力的になればなるほどそうなって行き、そして、そんな彼女を他の男が現実に自由にするかもしれないことになっているのはなんとも皮肉な話だった。

「じゃあ、今日は帰るまでどこにいたの?」

日曜日の小さな嘘が心に刺さり、私を疑い深くしていた。

「ひとりで飲んでたの。なかなか帰れなくて。ずっと考えてたの。」

「その男と話していたということじゃないんだね。」

「そうじゃないわ。先週、話をもらってからその人とは会っていない。」

その言葉に、絵里が、私の見知らぬ男と密会し、SMプレーの取引をしているシーンが頭をよぎった。
そういった現場が醸し出す淫靡な雰囲気とともに。