28. 希望と熱中

投稿者: ゆきお

怖れていた一人の月曜の長い時間…
できるだけ平静に仕事に向かおうとした。

自分でも意外なことに、私は「あのこと」の具体的なイメージを頭から追い払って、仕事に向かうことができた。
金曜の夕方のように、妄想に苛まされること、歪んだ性欲を刺激されることを怖れたが、それは起きなかった。

土曜日と日曜日の充実した愛の営みが、リビドーをある程度発散させていたのかもしれない。

週末の二晩の絵里とのセックスの記憶は、ある程度の興奮を呼び起こしたが、私はそれを、今までのように別種の妄想の世界に結びつけなくても済んだ。
その記憶を、そのものとして、純粋に反芻するだけで私は満足できた。
週末のセックスで、「あのこと」を別の世界に閉じ込めて蓋をすることができたように、私は過ぎ去った二晩の私たちのイメージを純粋に分離させておくことができた。

「どうにかなるかもしれない」と心の中でつぶやいた。
昨晩のような強い絆が築ければ、こうやって、半年乗り切れるかもしれない。

その安心感は、私を仕事へと向かわせた。
久々に仕事に集中できた。

絵里は、もともと遅くなると言っていた。
月曜日はそもそも遅い日が多い。

簡単に一人の食事を済ますと、絵里が帰って二人で飲むことになるかもしれないときのために簡単なおつまみのめどをたてて、再びPCの前に座った。

前の晩に、絵里に語った新しい翻訳の仕事にとりかかる希望とともに、原書の新刊情報などを久々に読み漁った。
もうしばらく惰性のように、受け身の仕事をこなすだけのことに慣れていた私にとって、自分が知的な職業人として主体性を取り戻したような気がした。
次から次へと、知的に刺激的な新刊の情報を芋蔓式にたぐって読むうちに、最初に痛いほど感じていた、沈滞していた時期への後悔の気持を、未来への希望が上回ってきた。
出版社に私の企画の要望が通るのかどうか、翻訳権をとれるのかどうかも定かでないのに、訳者としてそれらの本をぞくぞくと出版するイメージに、皮算用が膨らんできた。

あとから考えると、何かを抑圧しての熱中だったのかもしれない。

そのときは気づかなかったが、見えない相手に無意識に張り合っていたのかもしれない。
今となっては、無意識のうちにもそんな気持が働いていた自分、そんなことが可能だと思っていた自分を、苦々しく思い出すことにしかならないのだけれど…

しかし、そのときの私の仕事に対する情熱はともかくも、意識の中では純粋だった。

予定を告げられていたとおり9時を回って絵里が帰ったとき、私は時間のたつのも忘れて、熱中していた。