29. 脆いバランス

投稿者: ゆきお

新しい週の始まりによって、また私たちにとっての新しい段階の日々が始まった。

それは、ついにその週末に迫る出来事、そしてそこから始まるであろう私たち二人にとっての新しい時期を前に、自分たちの気持にできるだけ波風をたたせないようにしながら、そのことに自分たちを適応させて行くために与えられた期間だった。
はっきりとは口にしないまま二人ともそれを痛いほど感じていた。

週末は充実していた。
月曜日もじょうずに乗り切ることができた。
私は未来を描きながら仕事に集中することができた。

月曜の晩、私たちは手探りするように、いつもの夜を過した。
充実した週末の性生活のあとで、セックスはしなかったが、私は仕事の話で饒舌になり、彼女も遅く帰った割には仕事の後のストレスを忘れたように明るく応酬し、二人ともほろ酔い気分で寝るまでのよい時間を過ごした。

その平常が危ういバランスの上に成り立っているのはもちろんだった。
しかし、私たちにとってはそのバランスを上手にとっていくことが重要だった。
そして、新しい週の始まりをそうやって乗り切ったことに胸をなでおろしながら、火曜日もその再現を期待した。

しかし、懸命に保っているその危ういバランスをいとも簡単に突き崩すような試練の一撃を、私はその日、朝から受けることになった。

火曜日の朝、出かける間際の絵里は、自分の鞄にA4の書類用の封筒を入れながら、2つあった封筒の1部を私に渡し、

「これ読んでおいてくれない。とにかく落ち着いて読んでね。話は帰ってからゆっくり。」

そう言うと、私に答える隙を与えずさっさと出て行った。

絵里の後ろ姿を見送るのもそこそこに、私は嫌な予感とともに封筒を開いた。

A4数枚の綴じられた書類が出てきた。

「SMプレイ契約書」

表紙に印刷されたその文字が目に飛びこんできたとき、頭まで一挙に血液がのぼっていくのを感じた。