45. じゃれあい

投稿者: ゆきお

とうとう出発してしまった。

恐れていた、一人取り残される長い時間がやってくる。体を動かすことでどうにか紛らそうとした。

しかし、家で身体を動かすといっても、朝食の後かたづけと簡単な掃除、洗濯機を回すくらいのことしか残っていない。15分とかからなかった。

その間、頭は、過ぎ去った数日の記憶へと向かっていた。

この二日間の、そして特に、昨夜の思い出は、実を言えば陽気なものだった。

コーヒーの残りを飲みながら、その記憶を反芻し、その中に浸った。これから起こることに考えを馳せるのを拒絶するかのように。

水曜の検査証明書の件は、一時的に私の心に、そして私たちの間に不穏なさざ波を立てはした。しかし、一晩寝た後午前中には、私はしっかりと心を決めた…。

土曜日から起きることは、二人で決めたことだ。決めた以上は、否定的な感情でこれ以上二人の時間を暗くするのは止めよう。残された2日間を、二人にとってよりよく過ごすことが、「それ」に立ち向かう唯一の方法だ…。

私は、優しい気持ちを固い殻にして、不穏な心のうごめきをその中に閉じ込めることにした。

その気持ちは絵里も同じだったと思う。

その夜、自然な流れで、久々に平日のセックスをじゃれあいながら楽しんだ。

「いよいよ嵌められちゃうんだよな。僕の知らない男に。」

「そうだよ。妬ける?」

「そりゃそうだよ。」

「でもこれで、5年越しの願望がかなうんでしょ。」

「ん?」

「前にあんなに興奮してた…きみ。一歩手前だったわよ。」

「そうだね…」

「帰ってきたら、妬けたぶんだけ、いっぱい愛してくれる?」

一度行為が終わったあとのリラックスした気持ちから、寝物語にそんな軽口まで出てきた。それが、刺激の材料となって、どちらからともなく二度めの行為に燃え上がった。平日の夜に、何年ぶりだろう…。

揺るがせない事実、これからやって得体の知れないものを前にして、二人で協力しながら、ユーモアを武器に、それより優位に立とうとしていた。
前の週末の充実の気分が戻ってきていた。その時の充実の源は、未来への希望だった。こんどは、今あるセックスの快楽、そしてそれを余裕を持って楽しめる自分たちへの陶酔がそれに代わった。

前夜である昨晩は会話は演技になぞらえながら、きわどいものへとエスカレートさえした。

「おっ。びしょびしょじゃん。奥さん。」

「あっ。いやん。」

「お、すごいな。もうこんなに感じちゃって。」

花芯入り口の夥しい愛液のぬめりを楽しみ、クリトリスを愛撫しながらからかった。

「あっ。う〜ん。そういうあなたこそ、ビンビンじゃない。変な想像でぇ。」

「明日の今ごろは、サディストにねちねちいたぶられてるんだな。」

「そしてあなたは、一人悶々と想像しながら興奮してるわけね。変態ね。」

その言葉に煽られるように、私は2本の指を、膣内に突き入れた。

「ああん。」

絵里のそこはそれほど広くない。ふだんなら指一本で道をつけて次の指を加えるのが常の私としては、乱暴なやり方だったが、熱くぬめったそこに、ずぶずぶというように2本の指が入っていった。

「あっ…あっ、あっ…」

中に入れた指を膣壁を擦るように抜き差しするたびに、絵里の声からは、先ほどまでの戯れの調子が消え、我を忘れたものになっていった。

「ああん。もう、だめ…ねっ。きて、きて。」

その声に、私も興奮が一気に高まった。指を抜き体勢を変えて、仰向けになっている絵里の脚を大きく開かせた。体を割って入れ、両腿を持って、猛り立ったものをブスリ突き刺した。

「あっ。すごい…ああん、すごいよぅ…きみ」

自分の勃起をこんなに痛いほど感じるのは、妄想にかられたオナニーは別として、絵里との普通のセックスではひさしぶりだった。

ペニスにからみつく絵里のものを感じながら、ゆっくと身体を屈めて胸を重ねた。肩を抱くと、絵里は夢中でしがみついてきた。

私のほうも、もう悠長な技巧を考える余地はなくなっていた。

上半身を固く抱き合ったまま、腰を力強く動かした。絵里の腰も私の動きに貪欲に応える。
注挿しながらの何度めかの長いディープキスから、唇を離すと。

「ああん 、ああん。あっ、あっ。ああん、ああん、ああん…」

絵里の口からは、なすがままの手放しの啼き声が漏れてきた。膣の奥が熱く盛り上がってきたところを、きつく擦りながら抽送した。

絵里がいちばん感じて達っしていくときのパターンだ。そんなとき彼女の声は大きく、連続したまま際限なく続く。学生時代に安アパートでセックスしていて、絵里がそんな状態になったとき、その声の大きさはしばしば悩みの種になったものだ。ディープキスで口を塞ぎ、声を殺してやったりした。が、離すと前より声はいっそう大きくなる。声を気にする必要のない今は、それは絶頂に向かって高めていく二人の間の技巧になっていた。

「あっ、あっ、あっ、ああん、ああん、ああん、ああん、あっ、あっ…あああん、ああん…」

私の動きによって引き出されるがままになる声に、自分の力の充実を感じた。そして、そのみなぎった意思の力を本能が圧倒していった。自制を捨て、本能の赴くままに腰を打ち付け、ペニスの先端に膣壁と子宮口を感じて、力強く突き上げながら、放出へ向かって一気に高まっていった。

一体となった二人の間には何もなかった。そこには思考さえもなく、二人は粘膜と粘膜そのものになっていた。絵里を観察する余裕さえなくなり、いつの間に私自身も強く目を閉じていた。

「きて、きて、ああん、ああん。」

私のが精を放つ前の気配を、絵里はいつも敏感に感じとる。

その声を耳にすると私は、もうすべてを忘れ、大きく何度かグラインドすると「うっ」と声を堪えるように射精した。

頭に痺を覚えるような射精感がいつもより長く続いた。

身体の緊張が解けると、硬くはなくなったが、まだ十分に大きいままの自分のペニスに、今度は、絶頂の後の、ひくっ、ひくっという絵里の規則的な膣の締めつけを感じた。それはいつもより強く長く続き、絵里の感じたオーガズムの強さ、深さがはっきりと感じられた。

それを感じながら、何も余計な思いのない、そしてとてつもなく優しい気持が私の中に広がった。

後から思えば、それは、二人のオーガズムに何者も何物も介在しない最後のセックスだった。

絵里の息が収まるまでしばらく預けるようにしていた身体を起しながら、名残りを惜しむように挿入していたものを引き抜き、ベッドサイドの時計を見やると、まだやっと11時を回ったところだった。

深夜に及ぶセックスのような気がしていたが、9時前からベッドに入っているのだから無理もない。

まずいな、これだと早く目が覚めてしまう…、そんなことをぼうっと思いながら、サイドテーブルに置いてあったミネラルウォータを飲んだ。そして、言葉にもならない甘い呻き声や、笑いで体と体のじゃれあいを続けながら、あまりに充実したセックスの後で、昨晩のように二度目にとりかかる元気がないのをお互い感じ、シーツと羽根布団をたぐり寄せて、二人とも裸のままぐったりと眠りに落ちた。