46. 二つのホテル

投稿者: ゆきお

そんな思いに浸っているところに、携帯メールの着信があった。

絵里からだった。

「今、余裕でチェックイン。
フライトは予定通り。

お母さんには、今晩の件、私の方からメールで断ったから。

私がチェックインするホテルは、×××…
プレイに使うホテルは、×××…

必要ないと思うけど、念のため。
特に緊急事態じゃない限り、この後、明日羽田に戻ってくるまでメールしないことにするね。

そのほうがいいと思うから。

だから連絡なくても心配しないで。

ちゃんとご飯食べるのよ。
約束して。

じゃあ、しばしのお別れタイムね。

絵里××」

メールがあったのは嬉しかった。

しかし、そのことで、昨日の思い出に浸っていた気持が、これからの時間に引き戻された。
ホテルの場所については、今朝話題になったとき、「あとで教えるから心配しないで」と言われていたものだが、2つあるとは知らなかった。 いろいろと疑問が湧いてくる。しかし、とりあえず返事しなければ…。

「ありがとう。
約束するよ。
気をつけて。
何か不都合なことがあったらすぐ連絡して。」

そっけないもの言いになったが、他に言葉も見あたらなかった。

チェックインするというホテルは、絵里が普通出張で使うようなビジネスホテルとはワンランク違う、有名なホテルチェーンのシティホテルで、その都市では、最も高級な部類に属するものだった。その手のホテルは私は、出世頭の友人の結婚式とか恩師の祝賀会くらいしか用がない。

そのホテルも、実プレイ時間の定義にある、プレイ場所としてあらかじめ指定するホテルというものに入るのだろうか。そのような高級ホテルでの隠微な男女の行為の光景がしばし頭をかすめた。絵里が私の手の届かないところに行ってしまうという思いが強まった。しかし、今さら絵里にメールして問詰めるのもはばかられた。

プレイに使うホテルは、検索したところ、その都市で唯一と言っていいSMプレー専門のホテルだった。

ホームページこそないものの、それ専門として有名なそのホテルはいくつかのブログ紹介されていて、部屋や設備の写真を見ることができる。

暗い牢獄のような部屋、鉄格子、拘束用の椅子、十字架、三角木馬…一般にSMホテルやSMクラブでのプレイで典型的に想像されるような光景がずらりと並んでいた。

そのホテルについて触れている情報を検索して読み、一つも漏らすまいとするかのように写真を探して見ていった。

出張方式のSMクラブの指定ホテルとして利用されていて、SMクラブのホームページのプレイシーン紹介の写真の多くがそこで撮らたものだろうと思われた。その他個人ブログでの記事や、そこで行われたであろうSMプレイの体験談をを検索しては拾い読みしているうちに、そこでこれから過ごすはずの絵里のイメージがひどく生々しく頭の中に迫ってきた。

そうこうするうちに飛行機の飛び立つ時間がすぎ、昼食時間もとっくに過ぎていた。

このまま行くと、絵里が向こうに到着する時刻もやってくる。

相手の男が迎えに来るだろう。そしてどこへ行くのか。

二つのホテル…

高級シティホテルの一室。そしてSMプレイの装置や用具の並ぶプレイルーム。まさにその場所に拘束された女性たちのネットの写真に絵里の姿が重なる。

二重、三重に私の手の届かないところへ絵里が行ってしまうことが強い実感となって迫ってきた。遠い場所、私に縁のない高級ホテル、妄想でしか私の知らない暗い世界、それらの時間を支配する私の知らない男。

その時間を生きる絵里の姿をリアルタイムに想像しながらこの家で過ごすのは、とても精神が持たないと思った。

食事しに外へ出ることにした。