49. スプマンテ

投稿者: ゆきお

目が覚めたら、日が高くなっていた。

壁の時計を見ると1時を回っていた。
何より「しまった」という思いが先になった。

恐る恐る体を起こすと、頭にかなりアルコールの残る気配はあったが、ひどい二日酔いにはなっていなかった。
吐き気はない。
よかったと思った。

昨晩は結局、体にはあまりよくないとは思いながら、大分バーボンが回ってから誘眠剤を飲んで寝たのだった。
アルコールだけで酔い潰れるまで飲んでいたら、二日酔いがもっとどうしようもなかったはずだと考えると、それでもしかたなかったと自分を納得させた。

目がしだいに覚めてくると、 罪の意識が襲ってきた。
絵里が一つの試練と言ってもいいものを経ている間に、自分は嫉妬心に耐えきれずに、卑怯にも酔いと眠りの中へ逃げ込んでしまったのではないか…。
酔い潰れ、眠りほうけている間に、もし絵里から助けを求める緊急の連絡でもあったらどうするのだ…。

携帯を見たが、着信もメールもなかった。
期待することを禁じられているとはいえ、失望感が、さらに心を重くした。

とりあえず、絵里が戻ってくるまでに、体調をちゃんとしようと思った。
二日酔いの状態をさらしたくなかった。
体力の回復に努めながら、午後の残りの時間をソファにじっと横たわって過した。

のろのろとしか動かない頭を、夜を共にした男女が一夜明けて行動を共にしているいろいろなシーンだけが活発に訪れ、何度も何度もループした。

それは、暗いSMホテルよりも、シティホテルのイメージと結びついていた。

明るい朝の光の中で清潔なシーツにくるまれた裸の男女。
疲れと充実の気分を共有しての朝食。
日曜に特有のゆったりした雰囲気の中での昼食。
そわそわとした旅立ち…。

そこで活動する男女のいる場所は、消耗した心身をかかえて植物のようにじっと横わっている一人の男の意識に、ひときわ遠く手の届かない別世界として写った。

冬の短い日も暮れるころになって、飛行機の到着の時間を意識しながら決断して起き上がった。
シャワーを浴び、居間を片づけ、夕食の手はずの思案をしているところにメールが着信した。

絵里からだった。

「今羽田。これから帰るね。モノレール乗って、乗り換えで駅につく時間が分かったらまたメールする。」

食事の希望を訊いたメールに、簡単な軽いものでいいと返事があり、私自身もまだ食欲が本調子ではなかった。
しかし、二人して有り合わせのものを食べて週末の残された少ない時間を過ごすという考えは耐え切れなかった。

急いで家を出て、近くのイタリアンのデリカテッセンで生ハムやサラダ、イタリア系の惣菜を買った。
せめても少しは美味しいものを二人で食べたくて、いつもより予算を奮発した。

酒売場で、冷やして売っている白ワインを物色した。
二日酔いからやっと回復した私はともかく、絵里はちょっといい酒でリラックスしたいのではと思った。
スプマンテのボトルを手に取った。
この手のイタリアンのつまみでゆったりしたい時に私たちの中での定番だ。
しかしシャンパングラスでそれを乾杯することを想像すると、まるで祝杯のようだと思いなおし、いったん手に取ったそのボトルを戻した。

「試練」を終えて旅から帰ってきた絵里をできるだけねぎらってあげたいという気持ちは強くあったが、いったん想像してしまった祝杯のイメージを忌避したいという気持ちのほうが勝った。

結局、無難な白ワインを選んだ。