54. シェヘラザード

投稿者: ゆきお

絵里とセックスをしたのは、その週の金曜日だった。
前の週の金曜日の記憶が蘇えってきたこともあり、その最後の夜と同じほど情熱的に愛しあった。

土曜日の晩のセックスは格別な思いをお互い胸に抱いてのものだった。
私のほうは、一週間前の夜の暗いエネルギーを、絵里の体に思いきりぶつけた。
絵里の胸中にも複雑な何かが渦巻いいていただろう。
しかしそれを知る由はない。
前の晩よりも、さらに乱れたセックスとなり、何度も体位を変えて狂おしいまでに求めあった。

同時に、最初に私が目論んだとおり、絵里が帰ってきてからその時まで語ることのなかった問題の3時間のことについて、金曜の晩のセックスのときから、徐々に聞き出すことができた。

私にとってほぼ1週間の冷却期間が与えられたあとで、絵里の話は、心を沈滞させるものというより、強い刺激となった。

絵里は私の誘導に応じて、徐々にしか話さなかった。
最初ははっきりと言うことを躊躇していた絵里も、一つ一つのシーンがいったん言葉になると、自分の言葉に、そして私の反応に、刺激され、高ぶった。
言った後に、時には、何かをこらえるかのように恥じらいながら静かに深く、時には、積極的に自分を刺激するかのように激しく。
それによってセックスのときの絵里の反応はいつもより多彩なものになった。

私たちの間にセックスへの情熱が鮮かに蘇えってきた。
情熱は週明けにも持ちこされ、次の週も週日にも2度ほど愛しあった。
それは2週間後のバレンタインの夜に彩りを添え、その後の週までも続き、2回目のプレイの日を待ち受ける週になると、またそのことへの予感で新たな力を得た。

話が徐々にしか進まなかったのは、躊躇する絵里を私が誘導する形でしか聞き出せなかったこともあるが、話が行為によって中断されるためでもあった。
ある細部に刺激されると、私のほうで自制できなくなり、激しく挑みかかった。
絵里もまたそれに敏感に応えた。
挿入したままの寝物語の中で、あるシーンや言葉によってお互い高ぶって一気に、絶頂を目指しての運動にに向かい、そのまま果ててしまうことも多かった。
そうやって続きは次の夜に持ちこされた。

そうした新しい刺激をともなった夜への期待が、いつになく頻繁に二人をベッドへと向かわせた。

はじめのころは話の中断は、本能にまかせての偶然のものだったが、夜を重ねるうちにおのずからリズムができてきた。
そのうち、明らかに絵里自身もそのリズムを楽しみはじめ、時にはその楽しみのため、話をじらし、興奮を求めて細部に力を込めたり、意図的に話を中断した。
話の中断はフラストレーションを生むのは確かだが、それが私の反応を引き出すためだと思うと悪い気はしなかった。

以前翻訳した本で触れられていた「千夜一夜物語」のシェヘラザードの話を思い出した

絵里にそれを言うと、

「あら、あと半年もないから。残念。残り5回分では、お話も千一夜は続かないわね。」

と、彼女らしい返事が帰ってきた。

確かに、二人の間でそんな夜が千一夜続くことはなかった。
が、その理由は、そのとき、私が、そして確かに絵里も思ったものではなかった。

新しく発見した刺激を好奇心とともに弄びながら、そんな話で戯れていたそのときの私たちには、シェヘラザードが毎夜毎夜夜伽に仕えるシャーリアール王となるのは、結局のところ私ではない別の男だということは、想像もしなった。

しかし、私という人間がもそもそもその王の役柄にふさわしいものではなかったということは、私も絵里も、物語を少し深く考えることで、思い起すべきだったのかもしれない。

その物語は王が最初の妻を不貞を理由に殺したことから始まっていたのだった。