66. 変更

投稿者: ゆきお

「次のプレイの日なんだけど…。」

「もう3月も終りになるんだね。」

「そうなんだけど、1週間早めてほしいの。」

「どういうこと?」

ホワイトデーの重なった、いつもよりもまた格別華やかな気分の土曜日の夕食の最中に、スケジュールの変更の話を絵里が切り出した。

年度末決算の関係で仕事がたてこみ、最悪土曜日出勤もあるかもしれない。
それで、予定をずらしたいという。

「最初に契約書でスケジュール決めたときから、そういうの最初から見越してたんじゃないの。」

「私はそのつもりで予定を組んでたんだけど。」

「向こうの都合ってこと?」

「じゃなくて、同僚のほうの進捗が遅れてて、報告や数字が私のほうにちゃんと予定どおり回ってこないのよ。だから、とばっちりで私のとこもどうしても最後の週は修羅場になりそうなの。休日出勤になるかもしれないのに、部下の子たちだけにまかせて、私だけで出ないというわけにはいかない…。そのうえ金曜日は送別会とかもいろいろあって夜遅いと思うから、動かせれば…。」

「なるほどね。で、向こうは。」

「小野寺さんもほんとはそのほうが都合がいいって、調整してくれた。」

そして、春分の日で休日となった金曜日からの3連休を利用し、金曜日に行き土曜日に戻り、月曜日からのハードスケジュールに備えて、日曜日をゆっくり過したいと言った。

自分のほうできっちりと計画を立てていたはずなのに、同僚のせいで起きた不測の事態になんとか対応しようとし、部下の子たちだけにまかせておけないと無条件に考えるのは、いかにも責任感の強い絵里らしい。

実は、私のほうも内心そのほうが都合がいいと思った。
やはり私も3月の最終週末をめどに納品しないといけない技術翻訳の仕事があり、春分の日の金曜日もフルに使いたかった。
ところが、なんだかんだ休日気分の絵里が朝から家にいると、気にしないで仕事してとは言われても、やはりいっしょに過す時間が長くなったり、いい加減に済ませられない昼食や、早い週末気分の夕食で時間がとられる。
そのため連休に外へ遊びに行く予定も元々二人の間で立てていなくて、それでも絵里から急に外で遊びに行こうと言われたらどうやって断わろうかと思っていたところだった。

しかし、変えてほしいと私への頼みという言い方をしているものの、実質的にすべて根回しが済んでいるなら、ほとんど通知のようなものだ。
「いったい、こっちの都合は?」という気持もしたが、現実は私にとっても都合がよく、反対する理由もないので、「ぼくもそこで仕事が進むから都合がいい。」と、あっさりとOKした。

些細だが三者の利害が一致して物事が決まった初めての事柄だったと、あとから思い起して苦笑した。

「でも、もうちょっと早く言ってくれればいいのに。」

早く言ってもらったしても、別に何かする予定をたてていたわけでもなく、むしろ変更は歓迎すべきことであるはずなのに、やはり既成事実を押し付けられたという気持が自分でもどこかにひっかかっていたのか、言っても意味のない不満げな言葉が出た。

「ごめんね。小野寺さんから、最終的に調整ついたって連絡があったのが遅かったから…。」

絵里は言葉を濁したが、先程、絵里の携帯に連絡があったのではないかと直感した。
はっきり言わなかったのは私に気を使ったのだろうと思い、私もあえてそのことには触れなかった。
いわずもがなの自分の言葉にちくりとした後悔を感じた。

それにしても、ということは、もう来週だ。

私たちの充実しかけた夜は一週間短かくなり、土曜日の今ごろにはもう3回目のすべてが終っていて、私たちは同じようにグラスを片手にこうしているだろう…。

その夜は、どちらからともなく誘うように、いつもより早く寝室に入った。

月曜が始まり昼間ゆっくり一人になると、いろいろな考えが浮かんできた。

絵里が土曜日に戻り、二人で日曜日を過ごすこと。
また、戻った直後の週が禁忌の期間でないこと。

せっかく確立されてきたリズムにしたがって、「そのこと」を上手に扱っていた、私たちはそれをどう扱っていけるだろうか。

スケジュール調整の手段として、絵里が延期でなく、前倒しを向こうに提案したのは、気持ちの中にやはりプレイに対する何か期待のようなものがあったのだろうか。

いや、月に一度割り振るという考えからすれば、自然な解決法だ。
それに4月の頭に延期しても、それはそれで忙しい時期だろうし、それに4月に2回のプレイをしないといけなくなる。
絵里らしい合理的な選択だろう…。

スケジュールの1週間変更という一件些細なことが、そのときまでこのままあと4回、同じように物事が進むだろうという期待に安住してた私の心に波紋を投げかけた。

そして、恐らく意図したものではないにしても、この時期、インターヴァルが短縮されたことは、結果的に何かの役割を果したのではなかろうか…後々になって半年間に起きたことを振り返るとき、3回めのプレイの後私に見えた絵里の変化を思い起して、時々自問することになる。