69. 添付ファイル

投稿者: ゆきお

はやる心で添付ファイルをクリックすると自動的にダウンロードされ、アプリが開いた。

ダウンロードされたのはzipファイルで、開いたのは解凍用のアプリだった。
解凍用のアプリは自動的に解凍を開始せず、ウィンドウを開いてパスコードの入力を待っている。
暗号化されていることが分かった。
それに驚きはしなかった。

絵里は何年か前に会社が情報セキュリティの国際規格認定を取得する際にプロジェクトスタッフとして研修を受け、それ以来、私とのやりとりでも大事な書類のスキャンなどは、平文では送らない律義な習慣がついている。

契約書の附則8条の2にあった

「必要に応じて、携帯やパソコンなどからの情報漏洩を防止するためのセキュリティを強化する。」

を改めて思い出した。

この文面は絵里の提案なのかもしれないと思った。
最終的にはPDFになっているこの契約書も多分、暗号化してやりとりしたのだろうと思う。

それを考えると、第三者に見られて最もまずい自分の画像のやりとりに細心の注意をはらうことは当然だろう。

しかしパスコードは?

これもいつもの絵里のやり方で、別メールで来ると分かっているので、不安てはない。
が、こんどばかりはその時差に焦れる。

じりじり待ちながら、パスがないと開かないファイルから、付帯的な情報が読みとろうとした。

play_archives_1.zip

「archives?」 「1?」、いちいち想像力にひっかかる。
大きさは3M程度ということは、動画ではないか、動画にしても携帯の低品質の短いものなのだろうと想像した。

そして、作成日時はメールの送信の5分ほど前で、それにしても7時過ぎというという早い時間に撮られ、送られてくる画像とは?
いったいこの時間に何を撮ったものなのか、いや、この時間にいったい何をしたのか。しているのか。

ここでホテルのことで気になる嫌な予感が戻ってきた。
絵里は例によって家を出てからホテルの連絡先を教えてくれた。
前々回は前回と宿泊用もプレイ用も同じで、ホテル名だけ簡単に送ってくるだけで済んだので、今回もそうだろうと別にホテルのことを気にもとめなかった。

が、今回は宿泊するほうのホテル名が違っていた。
絵里からのメールを見てすぐに検索すると、名前から予想がついたとうり、今までの一流シティホテルではなくてビジネスホテルだった。
といってもビジネスホテルとしては高級な部類にはいるのがホームページで分かる。

さすがに先方でもこのままでは費用がかかりすぎるから、予算を節約したのか、などと思って場所を確認した。
その街の地理に詳しくない私には、住所を見てもピンとこなかったのだが、ネットの地図を見て、見覚えのある地図の様子だなと思ったとたん、その場所が分かりショックを受けた。
そのホテルは例のSMホテルと目と鼻の先、歩いて1分と言ってもいいところにあった…。
費用なんてぜんぜん関係ない、わざわざこの場所に選んだんだ…。

改めて前のホテルとの距離を確認すると数Kmある。地方都市で東京のようなところではないから、車で7、8分というと近そうだが、歩いても20分ほどはかかるというのは、別の地区にあると言っていい。
しかし、今度のホテルは…。
その差の意味は大きいと思った。

すでに1回目から2回目のときにプレイ時間が大幅に延長されていた。
絵里はこのことをどうとらえて旅立ったのか。
昼間にそんなことを考えたが、この日の私の関心は、画像の件に執着しすぎていて、このことに対する注意が疎かになっていた。

しかし、このファイルがいつどこで撮られどこから送られたものかという今の疑問で、そのことの関心が戻ってきて、不安が胸をよぎった。

3分もなかったその待ちの時間にいろいろなことが頭をよぎっていた。

そのとき携帯にメールがあった。
絵里からで開くと、件名も何もなく、ただ1行、アルファベットと数字がランダムにならんだような文字列が書いてあった。
暗号化されたファイルとパスを別ルートで送るというのも絵里のいつもの慎重なやり方だ。

10桁の大文字、小文字、数字のまじる複雑なパスコードを携帯の画面とPCの解答アプリのウィンドウを見くらべながら入力した。
気がせいていているのか2度失敗し、やっと3度目に成功した。

フォルダーができ6枚の画像ファイルが展開されたのが分かった。

震える手で、いや激しい胸の鼓動が 伝わって動かされているような手でマウスを持ち、最初のjpegファイルをクリックして開く。

ボンデージスーツで、手を上に吊られ、両足首のベルトを金属のバトンに固定さて足を開かされたまま拘束された絵里の姿が写った。

胸の鼓動が最高潮に達した。

黒い布のスカーフを広い帯にしたもので目隠しがしてあって、髪を前に垂らしてうつむくようにそっぽを向いているので、表情はまったく分からない。
恐らく顔を見せない写真をとろうとした選んだ顔の向き、アングルだと思った。

顔が見えないことにほっとしたような、しかし物足りないような気がして、もっと観察しようとしたときに、あっ! と思った。

絵里じゃない…。

最初絵里の写真が送られてきたという先入観で見はじめたので、絵里だとばかり思っていたが、そうでないと気づくと、はっきり絵里ではないと分かる。

背格好は似ているが、体つきはもう少しふっくらしている。
ボンデージスーツのベルトで、形を整えられている胸も、やはり元の形が違う、こちらのほうが全体的に大きく丸い。
何より乳暈と乳首の大きさが違う。
絵里のはもう少しつつましやかだ。

あらためて見ると、こんなにまったく別人を最初絵里と思った、その過度の期待からくる先入観に自分で苦笑した。

絵里でないということで少し落ち着くと、残りの5枚も次々にクリックして確認した。
何回かに分け別の機会にとられたように思われるが、全部恐らく同一人物で、そして絵里ではなかった。

裏切られたような苦い失望感に、安堵がまじった。
胸の鼓動が落ち着くのを待った。