77. 現場

投稿者: ゆきお

絵里からの携帯メールは、写真つきだと分かった。

画像をロードする間に本文を読んだ。

「ゆきおくん

プレイそのものではないということで、
場所を撮ることだけは許してもらえました。
こんな感じのところです。

なかななか口で伝えられないところ、
空気だけでも知りたいって言ってたから。
これで我慢してください。

顔は写さなくて、手の一部とかだけでも
いいのではという話にもなりましたが、
そうすると顔の見えない写真なら
いいかということにもなってきて、
境目が決められなくなり附則4条がなし崩し
になってしまうので、
やはりそれもだめにしないと
ということに話し合いの結果なりました。

このぐらいがぎりぎりです、
ごめんなさい。

画像はもし、とっておきたかったら、
保存にしてメールは削除してください。
私のメアド付きでこの写真があると
まずいので。

あとでもう一件送る物があります。

絵里」

送られてきた画像でまず目を引いたのが
その色調である。
暗く赤っぽい照明のものと思われるトーンを基調としていた。
そこに石のような壁をバックに、大きめのアームチェアの椅子を正面から撮ってあるだけだった。
産婦人科の診療台を模して作った特集な形状のものではなく、形は普通のアームチェアの椅子とそれほど変わるものではないが、大きさやアームの具合など、やはり、ある用途を意識して置かれてある椅子であると思われた。

全体の雰囲気は私がネットを検索して見つけたいくつの画像と似ていた。
が、それらに大げさな十字架や、壁にかけられたいろいろなプレイ道具、あるいは特殊な開脚拘束用の椅子が写っていたのに比べると、私の携帯に送られてきた写真は、あっけないほどに単純であった。

そして、その単純な写真は、私が見たどれよりも生々しいものであった。
もちろん絵里が現場から今送ってきたという同時性の持つ緊迫感はある。

が、それを抜きにしても、その椅子の写真は、目の前のそれに淫らなポーズをとって固定されるだろう、あるいはもう、固定されたかもしれない者、そこで特殊な快楽を与えらた者の目を通して撮影された何かがあった。

その椅子は、何度かの絵里の語りの中に出てきた物に違いなく、そして先に送られてきた6枚の写真に含まれているものだった。

絵里はどんな気持ちでこの椅子の写真を撮り、私に送ったのか…。

私にとって、絵里が自分の携帯で撮ったこの椅子だけの写真は、先ほどの別の女性が開脚姿で拘束されて写っているものよりも、あるいは、もしかして絵里が同じようなポーズをとって第三者に写されたものよりも、扇情的と言えた。

この写真を撮ったとき、絵里は、当然そこにいる自らの姿を心の目で見ていただろう。
縄をかけられ固定され、絞り出された胸の乳首ををクリップや鞭で責められ、全身を、そしてぱっくりと開かされた部分を巧妙なやり方で執拗に愛撫され、指やディルドによる探索で果てるともない快楽に身体をよじり、そのきわに男のものを迎えてさらに絶頂に追いやられた己の姿を。
絵里はそれらすべてを意識しながら、私に送っただろう。

私は絵里が心の目で写したものを受け取っただけで、十分だと思った。

その現場を先ほど撮ったのは、今日はその行為の果てなのか、それともこれからの予感を持ちながらなのか、それとも途中で降ろされてその写真を撮るように言われたのか。
それはもう今はどうでもよい。
それは後で絵里が語ってくれるだろう。

私はどんな画像よりも、どんな動画よりも、この見ようによってはたいして変哲のない一枚の携帯の写真を通して、「現場」を絵里とともに生きたと思った。

この件について、やっと自分なりの着地点が見つけられた。
これでいい。
絵里、ご苦労さま。

そう思いながら写真をぼうっと見ていると、絵里から携帯のメールが着信し、6桁の英数字が送られてきた。

もう一件送る物はこれなのかと訝る間もなく、もう一通のメールがきた。

私も知るブログサイトのドメイン内ののurlの1行に、絵里のメッセージがついていた。

「小野寺さんから参考資料の追加を送って欲しいということで頂いたのでリンク転送します。

メールは今度こそおしまい。
では明日。

絵里」