87. 「クランプ」

投稿者: ゆきお

残っていた自分のワインを飲み干して、ざっと後片付けをし、私自身が寝支度をし寝室に入るのに10分もかからなかっただろうか。
時間は11時を回ったところで、休みの日の夜としてはまだ早い。

寝室に入ると絵里は、ベッドの真ん中に布団も掛けずにうつぶせになって休んでいる。
電気が明々とついたままでだ。
そのままベッドの上に倒れたかっこうなのか。

電気を消して、こちらもベッドに入ろうとした。

熟睡しているわけでもないようだ。
私が横に来る気配を感じて、俯せのまま、タブルベッドの自分の定位置の側に移動しようとた。
そしてそこで一層目が覚めたようだ。
逆に私はベッドの自分の側にはいりこむとかなり端に寄り、絵里を制止して真ん中でゆっくり休めるようにした。

枕の上に置いて横にした顔を見ると、目はうつろに開き、また閉じた。
息づかいがあらく、背中が上下している。

「布団にはいって寝ないの?」
と声をかけると、

「ん、ん〜ん。もうちょっと…。」
と言葉にならない声を口走って、動くのも大義そうだ。

しばらくそのままにしておくことにした。

布団をかけてあげたかったが、すでに絵里が掛け布団の上に寝ているので、改めてどかすのもおお事だ。
それに昼間の陽気と、緩くつけている暖房のせいで、部屋は十分に温かい。

こちらは仰向けに体を少し起し、自分の側のベッドサイドのスタンドを点け、ベッドボードを背にして、読み掛けの本を手にしてゆったりしていると、右脇のちょうど手を置いたあたりに、大きな羽根枕をかかえて仰向けに休んでいる絵里の背中がある。
自然に片方の手で絵里の背中を撫でてやると、むずがゆそうに体をよじる。
絹の寝間着の手触りがこちらにも心地よい。

ゆっくりと撫でているうちに、シルクの記事がずりあがってくるので、面白半分上に上に撫でていると裾が大腿の上にずりあがってきた。
しりたぼがあたりが見えてとき、そのあたりが妙に赤い感じがした。

どきりとしながら、さらに、裾を上にあげて行き、俯せになっている関係上、一番たくしあげられるところで尻半分くらいが見えるところまで来ると、左右の尻に赤い部分がある。

薄々感づいていはいたが…。

可哀そうに。
絵里の体が愛しくなった。

同時にしかし、私の中に思いもかけない暴力的な衝動が走った。
体を起こし、絵里の足元あたりに一旦座ると、無理矢理といっていいくらいの力で、シルクの寝間着を背中までまくりあげた。

尻から背中にかけて全貌が見える。
みみず腫れといいうほどではないが、背中からお尻にかけて、赤い帯のような部分があらゆる部分にできている。

愛しい…。

寝間着代りのTシャツを脱いで上半身裸になり、その跡に自分自身の肌を重ねるように、そそそろと背中のほうへ覆い被さった。

「んん…っ…」

「痛い?」

「だいじょうぶ…、だいじょうぶ…。」

「…」

「ねえ、ずっとこうしてて。」

かすた声で絵里が言う。

しばらくそのままの姿勢でずっといた。
背中の赤い部分から熱がちくちくと伝わってくるような錯覚がした。
違う形で絵里が生きた時間が共有しているような気がした。

そのうち、いつもの癖で、腕を胸のほうに回して、乳房をさぐりに行った。
そしていつものように乳首へ指をやる。

「んんん…っ」

絵里がくぐもった声で呻いた。

枕に顔を埋めている。

なおも無視して、いつものように、乳首をもみしだくように愛撫しようとすると、

「痛っ…ねえ、お願い。痛い、痛いの。」

と枕から顔を少し捻って言う。

それを無視し、少し力をゆるめながらも、無言でゆっくりと続行しようとすると、

「痛…。ねえ、痛いのほんとに。クランプがとっても厳しかったの。今度は。」

「え?」

「クランプが…胸の… 痛いの。ずっとだったし、きつかったから…だからお願い…」

言葉の意味を解しかねてなおも乳首をとらえようとする私に訴えている。

そのときやっと “Clamp… Nipple Clamp という英語が頭に浮かんだ。

英語で言われれば、それが、ネジによる固定器具を現わすことは、語源上も知らない訳ではない、
Nipple Clampという名称も海外のSMサイトで見たことがある。

私がクリップとか締め具とか適当に呼んでいたもの、絵里もそんなふうに私に合わせて呼んでいたものは、今や二人の間ではクランプという語彙で共有されていたのか、と気づかされた。

最初からこの器具は使われているから、通算3度めとなる。

「クランプが厳しかった…。」

私の知らない世界に入り込んできる絵里が小野寺と、私の知らない語彙で交している会話、その一端を垣間見た気がした。