104. ショッピング

投稿者: ゆきお

絵里のからの申し入れを聞いた小野寺は一言

「それは難しいかもしれない…。あとで話しましょう。」

そう言ったきり考えごとをするように黙って運転を続けた。
絵里もそれ以上は何も問い質さなかった。
そのうち沈黙を嫌うように、二人の間では別の話題で会話が続いていった。

市内に入ると、車をホテルには向かわず、小野寺の会社のあるビルの駐車場に入った。
荷物はトランクに入れたまま、小野寺はビルの上階にある自分の事務所に絵里を案内した。

小野寺の会社には以前仕事で来たことがある、という。
しかしプレイで週末にこの町に来た機会の中では初めてだ。
連休ということで会社には誰もいなかった。
それでも、いやそれだけにいっそう、奇妙に後ろめたい気がした。
案内されたのは事務所は、会社の入っている階のもう一つ上の小野寺の個人のオフィスで、ここに来るのは初めてだった。
階下の会社の社長室とは別に、理事の仕事の兼務やプライヴェートも含めたお客さんのために確保してあるオフィスだと、小野寺は説明した。
言われてみれば、前に行ったことがある階下の社長室より、個人的なテイストが全体に漂っていた。
静まり帰ったビルの中で二人だけでそこにいると、ホテルの一室にいるような落ち着かない気分になった。

応接室のソファに絵里を座らせると、小野寺はコーヒーを飲もうと提案し、返事を待たずに応接室から出ていった。
間もなくして、デミタスカップを乗せたトレイを持って現われた。

「もうちょっといいマシンがあるといいんだけど、そのうち…」

そう言いながら、明らかにエスプレッソマシンで入れたコーヒーを絵里にすすめた。

私と絵里と小野寺の生活スタイルや嗜好にはいくつかの点で似た点があることが私にとってもだんだんら明かになる。
その一つが、コーヒーなしでは生きられない、特にエスプレッソが大好きだというところだ。
絵里と小野寺の間でもその趣味は明らかなものとして共有されていた。

コーヒーを飲むと、まだ日が高いから、市内へ出かけようということになった。
再び車で出発した。
小野寺はオフィスを出るときには書類鞄を持っていた(そこに彼のPCが入っていたことは後から見当がついた)。

小野寺は、最初から決めていたように車をデパートの駐車場に入れ、エレベーターで婦人服売り場への階を押した。
そしてショッピングを提案された。

「一緒に、服を買いに行きましょう。絵里さんに似あうものを。もちろん私からのプレゼントで。」

その言葉に危険なものを感じた。

「いえ、そんな…。」

やんわりとした遠慮の表現をとった社交辞令的な拒否と、それでも是非という言葉の間が少し押し問答に近い形になったが、最後、

「じゃあ、プレイのコスチュームと考えてください。それを買いに行きましょう。」

そう言われて、あきらめた。

「いっしょに買い物をすることは?契約の条項に反すると思います?絵里さん。」
わざと小野寺から持ちかけられた。

「附則7条の2項ですよね。社会的常識を弁えた親密な仲の男女の節度ある態度…いっしょに服を買うんですよね。親密な仲の公の暴露になるのか、デパートの店員が無害である飲食店従業員等に準じるか…難しいところですね。選ばれる服や、小野寺さんの態度にもよる
かもしれません。」

そんな会話になったという。