105. ワンピース

投稿者: ゆきお

マイクロミニや露出度の高い挑発的な衣装を選ばれたり、試着させられたりということを恐れて身構えた。

が、出方を探るような面持ちで、女性服の売り場を会話しながら少し歩くと、それは杞憂だということが分かった。

買い物はワンピースを1着ということになった。
小野寺の考えの基本がもともとそうであった。

小野寺は絵里の好みを聞き、その上で自分の意見を言い、デパート内のいくつかのブティックをまわり、店員の意見をも聞きながら選択を狭めていった。

選ぶとなったら絵里も選択には本気になる。
小野寺もそれなりにコメントした。

ファッション談義をしながら階をも移り、かれこれ30分以上、ブティックを見てまわった。
男性でこんなに辛抱強く女性の着る物選びに付き合う人間ははじめてだったと絵里は言う。
私はどちらかという苦手なほうで、長いときは、同じデパート内のコーヒースタンドや本屋などで、絵里が選び終るまで時間を潰していることも多い。

小野寺の意見が、自分が最初から決めている着せたいもという観点からではなく、店員や絵里の意見も聞きながら、あくまでも絵里に似あうという視点からのアドヴァイスであることが、徐々に分ってきて驚いた。
まるでファッションセンスのある年上の同性と買い物していたようだ、と絵里は言った。

ただその日表明された好みにはやや差があり、小野寺は絵里が考えているものよりも柔らかい素材のフェミニンなものを嗜好していた。
ただし押しつけるようなことはしなかった。

あれこれ見たあと、結局最初のほうに見た、絵里のもともと好きなブランドの店に戻ることになった。
そもそも、絵里がそのときに着ているコートのブランドでもあった。

その店で3着試着することになった。

二人の会話をそれほど聴いてはいなかったはずなのに、店員が、絵里の好みを取り入れたものよりも、小野寺の好みを取り入れたフェミニンなサイドのもののほうに、最も似合うというニュアンス込めた賛辞を呈したのには苦笑した。

後から考えると、彼女らが、男性のほうが喜びそうなスタイルを直感し、カップルに対ししそれを勧めるというのは一種の習い性なのだけれど、それにしても勧められるとその気になる。

3人の意見のバランスの中で選ばれたのは、そのブランドでその年に出した、植物的な曲線の模様のフェミニンな膝丈のワンピースだった。
シルク地で、体にフィットしながらドレープが大きく切ってあって、胸と裾には大きめの上品なフリルがあしらってあった。

たぶん一人で買い物していたらこの服は選ばなかっただろう。
が、似合うと言われて、自分でも確かにそう言われるのは分かる気がした。

V字の胸ぐりの開きがやや大きいと感じた。
このあたり、ほんとうなら絵里が普通は選ばない要素であった。

が、ともかくもそのワンピースに決めたということになり、元の服に戻ろうと試着室に戻りかけたとき、小野寺が、今のスーツのブラウスに合わせた小さなペンダントがアクセサリーとしてあわないと指摘した。
絵里もたしかにそう思った。
店員の女性も即座に賛成し、その店にあるアクセサリーをいくつか持ってきた。
そして、結局彼女の一押しする長めのチェーンのネックレスを貰うことにあっという間に決まった。

元の服に着替えて、小野寺がカードで会計を済ますときに、うしろめたい気持はあった。
しかしどんな経緯はあるにせよ、自分の好きなブランドで、しかも、それが似合うと複数の人間に言われれば悪い気はしないと、絵里は正直に告白した。

この時絵里がはっきりと告白しなかった事実、しかし後になればなるほど否定しようもなくなる事実があった。
それは、自分が選ばないような服を試着し、そして実際に着るようになることが、彼女の心に甘いさざ波を立てる要素だったということである。