107. チェックイン

投稿者: ゆきお

小野寺の背中を見ながら、その出方を緊張して待っている間に、店主が戻ってきた。

絵里の気持を見透かしかていたかのように、小野寺は女店主から受け取った紙の手提げ袋を渡した。
手提げの中にリボンのかかった包みが入っていた。
何と言っていいか分からず小野寺の顔を見た。

「後で開けてみてください。」

一言だけ言われた。

お店を出るとき店主が二人ににこやかに挨拶した。
「ありがとうございました。またお待ちしてます。」
彼女と一瞬目が合い、軽く会釈した。
向こうも絵里に微笑みながら軽く会釈した。
ごく普通の態度が、逆に、何もかも先刻承知というような、いっそう訳ありのものに感じられた。

お店を出てから質問した。

「これもプレイのコスチュームですか?」

「ほんとうはこれも個人的なプレゼントと言いたいところだけど、そう言うと受け取ってもらえないでしょう。だから、そういうことにしておきましょう。契約内の行為として。」

小野寺は、先ほどの女店主に負けぬこやかな笑みとともに言った。

駐車場へ戻り車に乗った。
連れ回して時間をとらせたことへの詫びとともに、今度こそホテルへ向かうと告げられた。

車の中で膝の上に乗せた手提げの中身が気にならないはずはない。

ホテルは、いつものSM専用ホテルのすぐそばのビジネスホテルだというのが、絵里自身も住所の検索で検討がついていた。
が、恐らくわざと小野寺が車でそこの前を通過して宿泊用のホテルに着いたとき、そのあまりの近さに驚いた。
1ブロック違うだけで、実際に歩いて1分だろうという距離だった。

その近さがに込められた特別の意味が、これからホテルへチェックインし、そして夜が始まれば分かると思うと緊張した。

車がホテルの立体駐車場に入ると、二人でロビーに向かった。
絵里が自分のキャリーと先程の紙袋を持ち、小野寺は自分の書類鞄とデパートの大きな紙袋、別の中くらいのボストンバッグを持っていた。
最初からトランクに入れてあったのだろう。
そのボストンバッグはその中身はだいたい分かる。
そのバッグをこんな早い時間に見るのは初めてだ。

何の変哲もないビジネスホテルだが、建物に入ると明るく清潔な感じだった。
今まではシティホテルに送ってもらったとき、小野寺はロビーで待ち、自分だけがフロントでチェックインした。
しかし今回、小野寺は絵里といっしょにフロントへ向った。
いっしょの部屋なのか、と身構えたが、小野寺はフロントに二人別々の名前を言い、2部屋の予約を告げた、ややほっとした。
ツインが2部屋とってあって、それぞれにシートを書いてチェックインした。

隣どうしの部屋だった。
部屋に向かうと小野寺の部屋の前を通過して、小野寺はふうつに絵里の部屋の前まで大きな買い物の紙袋をを持ってついてきた。

自然に二人で入ることになった。
絵里が荷物を置くと、小野寺も紙袋をベットの一つに置きながら言った。

「今日はこちらと、いつものところと2箇所のホテルがプレイのホテルと思ってください。実プレイ時間は、プレイ場所のホテルに滞在する時間と定義されていましたよね。」

穏やかな口ぶりだったが、先ほどまでは違う、きっぱりした有無を言わせぬ調子だった。

「お互い少しはプライバシーが必要でしょうから、私も別に部屋はとってありますが、基本的にはこっちではこの部屋を使います。」

小野寺が部屋を出ると、自分の荷物を整理する気力もなく、ぐったりと椅子に座った。
ノックがあったとき、まだ3分も経っていなかっただろう。
慌ててドアを開けると小野寺が入ってきた。

書類鞄ではなく例のバッグを持っていた。
それをベットの一つに置いた。

立ったまま小野寺と向き合う形となった。

小野寺の目の光を見て、もうプレイが始まっていると思った。

レースのカーテンごしに、日没後直後の薄明かりが射し込んでいた。