108. 社長プロフィール

投稿者: ゆきお

絵里の「その日のこと」についての語りが、小野寺との現実での関わりと錯綜しながら進んでいったことについてはすでに述べた。

新年度が始まって次の週、語りの進行の途中で、絵里が小野寺と会食することになったのはその一つである。

それ以外にも私のほうから呼び寄せてしまった一件があった。
それによって私は、小野寺という人物について直接の情報を得ることになった。
そしてそれを元に絵里からさらに詳しい情報を聞くことになる。

会食の予定を聞いたあと、小野寺と絵里の仕事を通じての接触が今後どのくらいのものになるだろうと気になった。
僅かな手掛りだけでもと、小野寺の会社のホームページを再訪した。

ブックマークをクリックすると鮮やかなロゴと写真が現れて驚いた。
そのホームページは今まではずっと、1月に絵里が会社の実在を示すために教えてくれたときのまま、テキストのみの表紙に会社の概要がPDFで示さていただけのものだった。

完全にリニューアルされていた。
というよりちゃんとしたホームページが作られていたと言ってよい。

最後に訪問したのは1ヶ月ほど前だから、その間に作られたことになる。

社長プロフィールのページも作られていた。
当然のようにそれが最も私の興味を引いた。

クリックすると、写真が目に飛び込んできた。

この男か…。

思ったより若い。
もちろんずいぶん前の写真でないとして。

髪の毛は黒く — もちろん染めているかもしれないが– 、禿げてもいない。
まあこれも人工的なものでないとしたらだが。

日焼けした精悍な顔つき。
意思の強そうな鼻と顎。
中小企業のやり手の壮年社長の典型的なイメージにはあっている。
この世界だったらもう少し前なら青年実業家として通ったろう。
いや今でもそうなのかもしれない。
口元と目つきがそれに比べて柔和な印象を受けるのは、営業用のスマイルのせいか。
その写真をしばらく眺めていたが、そこからあまりいろいろ想像してもしょうがない。

経営理念について挨拶文は、誰が書いても同じというような、通り一遍のものだった。

それより、経歴が興味をひいた。

生まれ歳は書いてないなかった。
そういえば、今まで絵里に彼の正確な年齢を尋ねたことはない。
絵里は知っているのだろうか。

経歴の各項に正確な年が書いてあるわけではないが、あれこれ計算すると、私たちとちょうど10歳ほど年上と考えてよさそうだった。
45歳…。
今私がこれを書いている時から4年前の時点の年齢だが、私たちと正反対に、日本の経済がどんどんと上向いている時代に大学を出て就職し、その環境の中で最初のキャリアを伸ばしていけた世代だ。

東京の有名どころの私大を出ている。
受験生が大学を選ぶ際に、私たちの出た大学と同一線上で選択肢の一つになり得る学校だった。
それを考えると、少なくとも同窓生でないこと、つまり先輩後輩の関係ではないことに少しほっとした。

大学は、なるほどという感じだったが、出たのが工学部というのが意外だった。
どんな学生時代を送ったのだろうか。
この世代のそうした大学の人間の行動パターンから、サークル活動や遊びともつかないイベント企画に明けくれてその中で対人スキルを磨いていたりビジネス人脈を作っている学生のプロフィールが、最初頭に浮かんだ。
しかし、出身学部から考えるとそれとも違うような気もする。

小野寺の像が、最初私が勝手に頭の中で描いていたものから少しずつぶれてきた。