112. 倒錯

投稿者: ゆきお

現実と複数の話の線の錯綜によって、私の中で小野寺という男が、色や息づかいを持った一人の人間として確実に動き出していた。
そして、たとえ日常の行動であれ、絵里と小野寺の結びつきが視界に入ってくると、そこに何か動かすことができないものが存在し、乗り越えらえないものがあると次第に意識されてきた。
その何かに圧倒される思いを抱くようになってきた。

そのなところに実際のプレイについての絵里の語りがはじまった。
私にとって前2回とはまったく違ったものになった。
絵里が前2回のプレイを正確に伝えていたとするならばだが、プレイの実質も。

………

ビジネスホテルの彼女の部屋で絵里に向き合った小野寺は、絵里にその場で、服を脱ぐように命じた。

ブラウスとスカート、ストッキングを脱ぎ、ブラとショーツになったところでで後ろ向きにさせられた。
ブラのカップだけが下げれ、そこに乳房を絞るように胸に縄がかかった。
両手が後ろ手に縛られれた。

正面を向かせられた。
小野寺はニップルクランプをバッグからとり出し、乳首にひとつひとつゆっくとはめた。
目をつぶることを許されず、自分の乳首を見下ろしているように要求された。
部屋の明かりはつけられていて、そして夕焼けの明りも外から射し込んでいた。
目隠しをされずに明るいところでのそのような行為、そのような姿は初めてだった。
恥かしかった。

小野寺が、いきなり片ほうの手で腰をとらえ、ぐっと抱き寄せると、もう一方の手で顎をとらえ唇を重ねてきた。
ニップルクランプに挟まれた胸を小野寺のワイシャツの胸に密着し、
そのまま、ディープキスになった。
ニップルクランプに噛まれた乳首を押し潰されながら、口腔の中を舌でさぐるような、ディープキスが長く続いた。
後ろ手に縛られ、よろめきながらそれに応ええるしかなかった。
痺れるような胸の痛みと、口をふさがれる苦しさをまぎらすように、自分の舌が応じはじめるのを感じた。
同時に下半身が反応しはじめてきた。

小野寺の指がショーツの上から局部を触りはじめた。
ショーツの上から触られているだけでも、そこがひどく湿っていることが自分で分かった。
ショーツの中に侵入した指が陰唇を割って入ってきたときには、自分でも熱いものが溢れ出すのを感じた。

舌が、乳首が、局部が痺れ、その痺れが頭から腰全体を覆うように広がっていった。
立っていられなくなってきた。

………

そのように、プレイのようすが私に伝えられはじめた。

絵里のためらいがちな語りに、追い討ちをかけるように質問し、細部を引き出し、絵里の感覚を表現させるのは、前2回のときにすでに経験ずみだった。
それは私たちの夜の生活にスパイスを与えてくれ、二人ともそれを楽しんだ。

しかし今回は、単に自分たちのセックスへの刺激のためという線を越えた恐しいばかりの倒錯感に支配されながら質問し、答を待った。
絵里も恐らくいままでとは違うその倒錯感に酔いながら語った部分があるように見えた。

「そのとき、正直に絵里はどんな感じだったの、どんな気持だったの?もっと詳しく教えてくれる?」

「簡単に口では言えないし、それに恥かしい」と答えた絵里に、それなら「メールで」と促したのは私である。

絵里はその私の要求にためらいながらも応えはじめた。

語りの情熱が、寝物語の枠組みを越えていった。
書くために、絵里は帰路のひと時をカフェで過すことさえした。
言葉と行為の倒錯が起ってきた。

文字になることで、私たちの間の倒錯感が増してきた。
書かれたものを読みながら、私はさらに質問を重ね、絵里のしたことをもっと精密に、そして絵里の感じたことをもっと深く知ろうとした。
絵里もそれにまた応えた。

何のために私たちはそれをしたのか…。

今度こそ曖昧な輪郭を埋めて欲しいと私は思っていた。
絵里もそれをしなければならいと思ったのか。

何があっても、何もかも伝え合い、分かちあいたいという一体感への欲望が私たちを支配していたのは確かである。

いや、絵里も分かち持ったその情熱は、すでに別の動機に支配されはじめていたのか。
あとから考えて、いつかの時点でそうなったことは明らかだが、「その日のこと」についての語りのときすでにそうだったかのか、あるいはどのくらいそうだったのか私には定かではない。