116. 労り

投稿者: ゆきお

「あ、痛い!」

肩甲骨のあたりの鋭い痛みに思わず声が出た。

耐えられないときはセイフワードを言うことになっているが、それを発する状況とも違う突然の痛みだった(セイフワードについてはずっと後に話題になるだろう)。
「痛い」という言葉はできるだけ言わないようにしているが、それども何度かは発したことはある。
それらはもちろん無視されていた。
しかしこの時の突然の声の調子に、責めによるものではない、別種の異変があるのを小野寺も感じたのだろう。

「だいじょうぶですか。」
腰の動きを止めて案ずるように訊いてきた。

「ごめんなさい、肩が。ちょっとずっと変な姿勢だから。」

「ああ、こちらこそ、ごめんなさい。こんな長いことこういう無理な姿勢にしておくつもりはなかったんですけど、つい私も夢中になってしまって…。今楽にしてあげます。」

そう言うと、絵里の体を持ち上げるに前へ倒しいったん下腹部の結合を解いた。
「私にもこの姿勢は腰に応えます。もう若くはないから。」

「さっきまで怖い言葉責めをしてたのにそんな風に、普通の中年みたいに…おかしいでしょう。」
絵里はユーモラスにその言葉を伝えたが、そんな普通の会話はむしろ、SMプレイの枠をはみ出した日常性に二人が馴れあっていくのを感じさせた。

足を前に延ばし座らせ、背後からささえながらゆっくりと縄を解いた。

縄と解くと、ベッドに普通に仰向けに寝かせられた。
体勢を変えるとき肩に少し痛みを感じたが、耐えられないほどではない。

「筋を違えたり、骨を痛めてないといいですけど。脱臼なんかしたら大変だ。申し訳ない。」
「だいじょうぶみたいです。」

そんな会話をしながら無造作にクランプが外された。
呻き声が出た。
このときの痛みはなかなか慣れない。
その小さな苦痛の声は小野寺はまったく意に介さないようで、平然ともう片方も同じように外した。

クランプが外されると、何の拘束もなくベッドに横たわっている状況であることを意識した。

小野寺は整体師のように、肩のほうを触り軽く押してみたり、腕をゆっくり持ちあげたり、痛みの具合を調べている。

馴れた手つきに、どこでそんなことを覚えたのだろうと、思った。
仰臥させられて痛みをチェックすると、また仰向けに休まされた。

「後で、マッサージしてあげますが、今は無理にそれもしないで、自然に治るかどうか様子を見たほうがいいでしょう。力を抜いて、リラックスしてください。」

ふっくらとした枕が気持ちよい。

5分もしていると治まってきた。
時々体を動かすが、もうなんともない。

むしろ腕と手首のちょっとした痺れのほうが気になるくらいだ。

労るように肩から腕のあたりさすりながら訊いてくる。

「だいじょうぶですか。」

「はい。もうだいじょうぶです。すみません。」

「いえいえ。とにかくよかった。」

仰臥した体をゆっくりとさすり続けている。
労るような手つきの中に、しだいに愛撫ニュアンスが込められてくるのを感じた。

膝を立てて開かされた。

「だいじょうぶですね。」

「もうだいじょうぶです。」

一つ一つそろそろと確認していく態度は安心感を与えるものがある。

指が内股を愛撫してきた。
むずがるように腰が動いた。
小野寺の手つきはすっかり愛撫のものに変っている。
それを受ける体の反応もそれに見合うものになってきた。
先程絶頂近くまで追い上げられところに、思わぬアクシデントで一旦引いた性的興奮は、容易に戻ってきた。

愛撫する手で両腿を掴まれた。
足を持ち広げると、
少し肩に負担がかかるようになる。

「だいじょうぶですか? 」

「だいじょうぶです。」

その会話の間に、小野寺は開いた腿の間に腰を割って入れ、猛りたったものをあてがうと一気に貫いてきた。

「あっ!」

まさかと思っているところでのあれよあれよという間の展開、不意の挿入に、胸の深いところまで貫かれるようなショックが走った。

腿がさらに持ち上げられ、完全な屈曲位の形になった。

「痛みは?」
ベッドに押しつけられている肩のほうを触りながら訊いた。

「もうありません。」

「それより…。」

「それより、何でしょう。」

目の前の小野寺の顔が微笑んでいた。