125. 奉仕

投稿者: ゆきお

顔を上げると小野寺と目があった。
ベッドで四つん這いになって男のペニスを咥えていた体勢のまま、今まで没頭していた作業から別の現実に引き戻されてのアイコンタクトは、何とも言えない羞恥心を催させた。
その羞恥心を増大させるように会話にはいるのはためらわれるが、そう言ってもいられない。

「ごめんなさい、彼からです…。」

「…?」

「電話…。何かあったんだと思います。でないと…」

「それで?」

「折り返し連絡したいんですけど。緊急かもしれなくて。」

「どうぞ。」

「でも、このままでは…。」

「いけませんか。」

「ごめんなさい。5分でいいから一人にしていただけませんか?」

無表情の小野寺の顔は明らかに絵里のその提案を歓迎していなかった。

「お願いします。そうでないと明日までずっと心配で。」

「…」

考え込むような表情の小野寺が口を開くまで長く長く感じた。
その間も心は私が電話をかけてきた理由についての想像が頭を駆け巡っていた。

小野寺がやっと口を開いた。
「分かりました。連絡をとるくらいの間なら解放して独りにしてあげましょう。ただ、その前にもうちょっとだけ少し辛抱してもらいます。5分か10分ほど。それでいいですか。」

「ありがとうございます。」
一刻も早く電話したかったがそう返事するしかしかたがない。

少しの辛抱? 何かといぶかられたが、このまま今の状況を続けろうということだろうと思ったところに、小野寺がベッドから不意に起き上がった。

「ここに来て正座してください。まず、続きをしてもらいます。」
ベッドサイドの向こうで仁王立ちなった小野寺が自分の前の空間を指したて言った。

予想は半分あたっていたにせよ、新しい状況に不意をつかれた。

正座してフェラチオを始めた。
別種の屈辱感に強く襲われた。

小野寺の手が後頭部を軽く押し、かなり深く咥えるように促した。
熱い男のものが口腔の奥深くに侵入してくるのを迎えざるを得なかった。
喉奥へ至り苦しくなる一歩手前で受け入れる動きが自然に止まったがそれ以上は無理強いはされなかった。

「舌を上手に動かしてもらえますか。」

おずおずと従った。
励ましの短かい言葉が何度が発せられるうちに、舌の動きが軌道に乗ってきた。

それを待っていたかのように「このあたりで続けながら聴いてください、絵里さん。」という言葉があると、それを前おきにして小野寺が語り始めた。

「返事は、舌の動きでするとよい。」
「…」

何も言えるわけはなく、口全体を占領されて耳に入ってくる言葉はまるで、脳に直接はいってくるようだった。

「フェラチオにはそれぞれテーマがあるのを意識してくださいと言いましたね。今のテーマは先ほどのものとは違います。何だと思いますか?」

返事を促されても答えられるわけない。
そして言われたとおり、暗示にでもかかったように、自然と舌を余計に動すことが返事の代りの反応になる。

「今のテーマは奉仕です。」

「…」

「奉仕と感謝はどう違うか。感謝には感謝の気持が必要だが、奉仕は必ずしもそうではない。もちろん感謝の気持を伴った奉仕は理想的だが、そうでなくても奉仕は動作に型があればできます。奉仕つまりサービスということですけど、何にかぎらず、接客ということを考えればよいでしょう。客に…すみません、必ずしも風俗業を念頭に置いているわけではないですよ、例えば飲食業で、何も個人的な感情を抱かなくてもパーフェクトなサービスは可能です。」

「絵里さんの心の中は今彼氏のことでいっぱいだ。だから先ほどまでと違って、私が感謝と言っても、うそでもそうい気にはなれないでしょう。あなたの心の中まで私が入りこむことはできない。ださらその代りテーマを奉仕に変えました。効率のよい動作さえあればよいです。」

「そして、あなたがここで効率を追求するための大事な理由があります。あなたが言ったように、私は生理的にはまだ満足していません。だから先ほどももやもやしていた。そして今ここで満足したいと思っています。私のリビドーが解放できたら、あなたを解放しようと思っています。5分か10分ほどとさっき言いましたが、それはあなたにかかっています。電話がどうしても気になるなら、早くすめばそれに越したことはない。自分の好きな方法でやってください。私もできるだけ早く満足するようなポイントは状況に応じて教えてあげましょう。」

小野寺はそう言うと、髪の毛を掴んで頭を後頭部のほうへ引いた。
頭がずっと引かれ、咥えたものをはずされた。

「さあ、好きなようにはじめてください。」

奉仕という認識とともに目的を設定され、新たなスタートラインに立たされた。

「早くいかせるために、フェラチオのテクを披露しなさいと言うことなんだね。」

絵里から状況を聞いたときの私の身も蓋もないコメントに、絵里は黙って私を見てから、頷いた。
無言で私を見ていたときの絵里の目に一種の冷ややかさがあったように感じ、自分の言葉の軽薄さに思いがいたった。
その状況を引き寄せたのは私であるというに対し、絵里はなんらかの感情を抱いているのではないか。
絵里にしてみれば「言わずもがなのことを他人事のように…」という気持だったのではないか…、そんな想像が、そのときの絵里との会話を思い出すたびに後から強くなった。