127. 洗滌

投稿者: ゆきお

小野寺が出て行ったあと、真っ先にバスルームへ行った。
気がせいたが、このまま電話することはできないと思った。

「口って多機能だけど残酷よね。」
その時の気持を、絵里らしい知的な言葉で表現した。

ほんとうはシャワーを浴びたかったが、その時間はないと思った。
とにかく口をすすぎ、歯を磨き、何度何度もうがいした。
神経質に歯磨きし、何度うがいをし口をすすいでも、喉が刺激で痺れ、口の中がねばりつく感覚、まとわりつく匂が消えないような感じがしたと言った。

実は出されたものを飲む行為を教え込んだのは私である(絵里がそう装っていなかったかぎり)。
初めて私の精液を飲み下したとき、絵里は異様な興奮に襲われた。
直後に下腹部がふるふると震え「何か変」と訴えた。
そして、血管を通る血液がぴちぴちはねる感じがして体じゅうが熱いと言い出した。
「きみのちっちゃな虫が暴れながら体じゅうをぐるぐる回っている」とも言った。
その状態は15分ほど続いた。
その表現を裏付けるように全身の肌を紅潮さえて、しばらく横になって全身の異様な感覚に耐えるようにしていた大学院生の絵里の様子を昨日のように思い出すことができる。

明らかに錯覚に違いない。
が、とてもリアルな感覚だったと絵里は言う。
「飲んだ精子が血液にはいっていくことってあるのかしら?」
大学は文系だが高校2年のときまで理数系で生物部だったこともあり、きちんとした科学的思考をする絵里にしては珍しく、真顔で聞いた。
このときのことは、後からよくからかいの種になったものだ。

それからしばらく絵里は、その感覚が怖いと、精液を飲み下すことを嫌がった。
しかしその感覚は行為を2度、3度と続けるうちに薄れ、数ヶ月の間に最終的になくなった。
そのことによって精液を飲むという絵里の行為は特別の思い出に結びついている。

まさか今更新しい相手にそんなことが起ったとは思わないが、その時のことを私は久しぶりに思い出した。
絵里も思い出したのだろうか。
そうでないはずはないと思う。
精液がいつまでもまとわりいているような錯覚や、神経質なほどの口内洗浄の行為は、その思い出を考え合わせるとよく理解できる。
しかし、お互いその思い出に触れることはなかった。

実は、絵里が3回目のプレーについてここまで詳しく語る前に、過去2回になかった新しい事項は何かという私の質問に対して、答えとしてあげたものが2つあり、その1つがフェラチオだった。
AVなどではほぼ必須要素のフェラチオがこれまで行われなかったことがむしろ不思議なくらいだから、それを最初に聞いたときにはたいして驚きはしなかったが、その状況や具体的な内容の全貌を知ってみるとやはりショッキングだった。

私が電話したのは、まさにそれが行なわれていた最中であったことに加え、小野寺がフェラチオのやりかたを変えさせたのは、彼の言うように明らかに私の電話に対する反応であった。
口内に発射することにしたのは私の電話のせいではないかという疑問は、後悔の念とともにずっと私の頭の中でまわっていた。
さらには、絵里はその生々しい余韻を引き摺りながら、私と電話で会話しなければならなかったことになる。
が、そのことについて、絵里自身が複雑な思いを抱いていることが明らなだけに、私としてもことさらに何か言うわけにもいかなかった。

………

シャワーを浴びる時間はないと判断したが、幸運なことにバスルームのトイレの洗浄装置にはビデ機能がついていた。
それを使ってバスルームを出ると、とにかく電話しなければと思った。
残り時間は短かく、あれこれの思いに囚われている余裕はなかった。