129. ランジェリー

投稿者: ゆきお

上品の薄い紫のブラとショーツを広げてみた。
凝ったレースになっているが、全体的にしっかりした厚みを持っていて、安っぽい感じはない。
タグを見てイタリア製だと分かった。
イタリアの高級ランジェリーの中でも、蝉の羽根のように薄いセクシーなスタイルのものではなく、フォーマルなシックさとラグジャリーを感じさせるタイプのものだった。
心魅かれるおしゃれさがあった。

「気に入ってくれました?」
小野寺から声をかけれた。

「ええ…」
という曖昧な返事になる。

気に入っていることは気に入っている。
ブランドも名に覚えがある有名どころだ。
金銭的なものを別にすれば自分で選んだとしても有り得る選択だった。
しかしここで、「気に入っているか」という質問に対する肯定的な返事は、「今身につける」という意味を持つものに他ならない。

「試してみます? どちらにしても『プレイのコスチューム』という位置づけになっているから、あっちのホテルで着てもらいます。」
迷いを察知しているかのような言葉。

もう一度、手持ちの下着の組み合せで今日これからと明日のやりくりの計算を頭の中で急いで復習してみる。
どう考えてもこの下着を今着るというのは最適な解決に見えてくる。
あと2、3時間でホテルに入るまでの間だ。
それに着てみて羞恥心を感じるようなものではない。
むしろ体を包まれたときの心地よさは誘惑的だ。
今これを着れば明日用にちゃんとした一組のブラとショーツが手つかずに残ることになる。
急にサニタリー兼用のショーツでやりくりしないといけない自分の姿がみじめに思えた。

残るは自分のプライドの問題だ。
それにしても、もともと下着のやりくりに問題があることが大きな理由だなどとは知られたくない。
心に抵抗を残しながら押し切られて従うような態度も避けたい。
相手Sとしての支配欲にむしろ満足を与えてしまうだろう。
この際、軽い気持でゲームにのったふりをするのがいちばんだ。
そう素早く決断した。

「そうですね。じゃ、着てみようかな。せっかくだから」
明るく言った。

「それはうれしい。」
無邪気な笑顔で返事が返ってきた。

バスルームに行こうとして、それを持っていくべきかどうか一瞬の迷いがあった。
一人なら、下着はそこに置いたままで、素裸で戻ってきて体を部屋の空気に触れさせ、乾いた肌と開放的な気分で着るだろう。
が、部屋にいるとなると話は別だ。
そうして下着を着用するところを見られることの羞恥心がある。

そんな気持から下着を持って行こうと一瞬思った。
が、せっかくのこの新しい高級下着をバスルームの湿った空間に持ち込み、その湿った狭い空間で着ることを想像すると、また心理的抵抗があった。

考えれば、過去2回のプレーで帰りじたくのとき素肌の状態から服を着ていく一部しじゅうはすでに見られている。
違うのは今日は時間が早く、ここがビジネスホテルだということ、そして下着にちょっとしたいわくがあるということだ。

結局、バスルームの中の湿った下着と湿った体を生理的な厭わしく思う気持のほうが勝った。
化粧ポーチだけ持ってバスルームに入った。

バスルームに入ると、これから出かけるために急いで仕度しているとい状況が、朝の出勤のときのようなきりっとした気持を呼び覚ました。
体のプレイの余韻に構うこともなく、時間がおしているときの出勤前のように急いでシャワーを浴びた。
迷ったが、急いでシャンプーした。
ドライヤーを高速回転させ、急いで簡単に化粧をした。
その状況でふと私が朝食を用意しているような錯覚があったという。
そのことはこれから例の件についてこれから話さなければならないことを思い出させた。

丁寧に体を拭きバスルームを羽織って戻った。
髪の毛まで洗い化粧してちょっと時間を使ったので、いらついているのかもしれないとやや心配になながら、小野寺のほうを見ると、使われてないほうのベッドで半身を起して座り、くつろいで本を読んでいた。
何も言わずに微笑んだままこちらを見ると、忍耐強い待ちの姿勢というように、読みかけの本に視線を戻した。
こういう時に女性をせかさない、何もかも悟ったような余裕の姿勢がにくたらしい。

ベッドの上の足元側にきちんと下着が置き直されている。
新品だったと思い出し、商品タグの外すために化粧ポーチの爪切り用の鋏でも使わないとと思いながら手にとると、さっきまでかかっていた商品タグが全部きれいにとられていることに気がついた。
ブラもショーツも。