131. 外出

投稿者: ゆきお

隣の大きめの袋におり畳まれて入っているワンピースも意識しながらわざと無視した。
小野寺も何も言わなかった。
ただ、「ほんとうは早くクローゼットに吊り下げておいたほうが皺にならないのに」というなんとも馬鹿げた思いが反射的に頭に浮かんだ。
小野寺が見ていなかったらそうしていただろうし、そのときもよほどそうしようかという思いが一瞬頭をよぎったが、やめた。

「女って不思議だな。」
その話を聞いた私がそう言うと。

「そうね。」
と一言だけ絵里は言った。

クローゼットのほうへ行くと小野寺からは視角になる。
緊張がほぐれた心です素早く算段をした。
手持ちの服は、同系統のブラウスがあと一着、予備の、外でも着れるようなTシャツが一着、そしてジャケットを変えなくても合うようなパンツを一着持ってきてあった。

パンツは明日の朝帰りに着るつもりにしているのだが、今着替えることもできる…。
しかし、これから食事に行くというところで、そしてこの気分でさすがにパンツに着替える気はしなかった。
結局ホテルに入ったときと同じマーメイドスカートで、ブラウスだけ変えることにした。
明日はコートの下はTシャツとパンツ、ジャケットで問題ないはずだ。
パンストは予備があるのでも問題ない。

視角になっているのを幸運に思いながら、パンスストを穿きブラウスを着た。
ベージュの薄いブラウスに紫のブラが少し透けるような気はしたが許容範囲だろう。
ジャケットもある…。

クローゼットの鏡でもう一度自分の姿を確認し、バスルームでもう一度化粧を確認してから戻った。
小野寺は辛抱強く本を読んでいた。

絵里の姿を見ると、一言「行きますか。」と言ってベッドから降り立ち上がった。
このあたりの状況を細かく聞き出したのは私だが、絵里の話の端々から伺える、こういう言葉の少ないあうんの呼吸のようなものが私にとってだんだんと心にひっかかるものになってきた。

部屋から出た。
変に緊張した。
エレベーターの中も気詰まりだった。
小野寺の目が自分の胸に注がれるとき、コート越しにイタリア製のブラまで視線が貫いているような気がした。
そう思うと体にも緊張が走った。

「ホテルの中の通路や、ロビーを一緒に普通に歩いていても、いつもと違ってちょっと変な感じがした」
と絵里は言った。

情事の後にビジネスホテルの部屋から二人から外の世界に出る感覚のことだろうと想像したが、それ以上は追求しなかった。

小野寺は絵里を待たせてロビーに一言声をかけ、頷くと、絵里外に促しながら表玄関に向かった。

「これから食事に行くところ、いつもよりちょっとラフなところですみません。あ、ほんとうはさっきのワンピースのほうが雰囲気敵にはぴったりなんですが、まあいいでしょう。これも後からゆっくり。」

絵里の返事を期待してもいないような口ぶりだった。

玄関にはタクシーが待っていた。
絵里を促して先に乗せると、店の名前らしい固有名詞を行き先とした運転手に告げた。
予約してあるとはいえ、そのあたりがいかにも地方都市らしい。

小野寺といっしょにタクシーやハイヤーに乗るのは始めでてではないが、やはりいつもより強い緊張感にとらえられていた。

「すぐですから。夏なら歩いても気持ちいいんですが、ヒールだとたいへんでしょうし、特にこんな日は。」
そんな気持ちを見透かすように小野寺は言った。

ゆうゆうワンメーターで行ける数分のところでタクシーが止まった。
歓楽街の中心からやや離れたところ裏道のようだった。

車を降り、小野寺に伴われて最終目的地と思われる店の前に立った。
地味な看板だが、名前や看板、表の雰囲気から酒場だろうと分かった。