133. ソファ席

投稿者: ゆきお

店はカウンター席と、中央に大きなソファのボックス席があるほか、三組ほどの小さな四人掛けのソファ席がある。

絵里と小野寺が座った四人掛けソファ席はお店のL字型になった場所の一番奥で、カウンターからも他の席からも死角になっている。
背もたれもそこの席のソファだけ他の席より高かった。
個室ではないが、個室風の機能を果たしていると見えた。
そして小野寺が最初からそこを予約していただろうということは先ほどの行動から分かった。

女性は、すでに栓を抜いてあったボトルのワインを小野寺のグラスに少し注ぎ味見させると、絵里と小野寺のグラスに注いだ。
たっぷりした大きなグラスだ。
イタリアの赤だった。
お店で飲むとかなりの値のするランクのものだと分かった。

グラスに注ぎ終えると、小野寺が「こちら、えみさん」と絵里に女性を紹介したあと、女性には「こちら、浅田さん」と姓で紹介した。
小野寺が、どういう知り合いか紹介することがなくて、女性のほうも特に詮索する気配もないのは、そんな店のプロの従業員らしいと思った。

「えみちゃん、乾杯していって。グラス持ってきて。」と小野寺が言うと、彼女は「じゃあ、ちょっとだけ味見させていただこうかな。」と言うと、お店の奥にいったん消え、グラスを持ってきた。

そして、小野寺の手招きでその隣に座った。
そんな行動がやはりこういう店らしい。
小野寺がえみと名乗る女性のグラスに注いだ。

三人で乾杯した。

えみは、溌剌と明るい若い女性で、そしてこうした場所の接客が板についていた。
単に乾杯するというような行為だけでも、場を持たせ、盛り上げることを知っている。
ワインバーといいながら、女性はギャルソン風の黒い制服ではなく、フェミニンなワンピースを着ていた。
そのセクシーなワンピースの似合う雰囲気の女性だ。
デコルテから覗く、小ぶりだが綺麗に盛り上がった胸がまぶしい。

「お食事届いてますが、どうされます?」
えみが小野寺に尋ねた。

「絵里さん、どうします?」
と小野寺に尋られた。

言われて、先ほど本能的に感じた空腹は、まだ食事するという気持ちにストレートに向かっていないということに気がついた。

「ええ…」
というような、曖昧な返事になった。

その気配を察した小野寺が、
「えみちゃん、じゃあ、軽く最初のやつだけ持ってきて。あとはそれから決めるから。」
と言った。

えみが立っていった後に、ソファの向こうの小野寺に小声で、空腹なのは空腹だが、先ほどの電話の件を早く結論を出さないと落ち着かないし、食事という気分ではないと訴えた。

「分かりました。」
と小野寺が一言答えた。

その返事のあと、間をおかずしてえみが戻ってきた。
綺麗いにデコレーションされた、パテの乗ったカナペの皿を手にしていた。

手招きでまた小野寺の隣に座ったえみに、小野寺が
「食事はもう少ししてからにする。それより、ワイン、ママにも味見させてあげて。ボトル持ってっていいから。」
と言った。

えみは、明るい声で「ありがとうございます」というと、ある種の気配を察したように、立ち上がり、「失礼しまぁす。」というとボトルを持って席を離れた。

二人残されて、新しい環境で、懸案の件について話をどう切り出していいか分からないまま、緊張しながら話あぐねているところに、えみがボトルを持って戻ってくると、ママからのお礼を伝えながら、腰をかがめてテーブルの上に置いた。
そして二人の間に流れる雰囲気を再び明らかにキャッチしたようで、席に戻らずに、「じゃ、ごゆっくり。食事の用意いつでもできますから。」と言うと去っていった。

緊張したまま座っている絵里を正面から見た小野寺が、

「まずこの話をしてしまいましょう。ちょっと込み入った話になるようだら、いいですか。」
そう言うと、ソファ席の絵里の側にさっさと移った。

「あっ」と軽く驚いたが、横に座る小野寺のためにソファの端に移動する反応しかとれなかった。