134. 説得

投稿者: ゆきお

「すみません、たぶん普通に小さな声で話してれば、この席の話があちらへ聞こえることはないと思うけど、やはりこのほうが落ちついて話しやすいでしょう。」

確かに小野寺の言うとおりだった。
先ほど、なかなか話しあぐねていたのは、やはり、人目からは隔てられているとはいえ、ある程度公の場で対面して座った状況で、微妙な話題をたとえ小声でも話すことへの抵抗感だった。

ぴったりとは密着していないものの、バーのカウンターに座っているのともまた違う隣の男の存在感、その落ち着いた親密感には、何か安心させるものがあった。
先ほどのホテルでも、そうした話は側臥したままのことだった。
そのときの安心感に似たものが戻ってくるのを感じていた、というのが私の質問に答えた絵里と話の中から伺えた。
もしかしてホテルの部屋でも、椅子に対面で座っていればなかなか心理的抵抗なしに話し合える内容ではなかったかもしれないと、絵里は言った。

二人の座る位置が変り、ソファに並んでそういう話をしている状況のイメージは私の胸をちくりちくりと刺した。
だが、むしろ対面でもそんなことが普通に話せるようであれば、それは二人の特殊な関係のいっそうの進展、知的で精神的な繋までへの発展、あるいは日常的レベルまでへの浸透を示すものに違いないし、その状況に掻き立てられる奥深いところでの嫉妬と比べれば、むしろそれは受け入れ易いものだということを、私はイメージしてみるべきだったかもしれない。
しかし、そのときの私の想像力はそこまでは及ばなかった。

「彼氏の電話の件、どうにかいい解決を考えましょう。」
小野寺はゆっくりと語り出した。
諄々と説くように、論理的に話したという。

何故撮影はだめなのかの理由を述べるのにすべて費やされたその話に、結局説得されるしかなかったと絵里は言った。
そしてそこでの話の内容が、私宛てのメールになったと言った。