151. 青写真

投稿者: ゆきお

「縛られてそれで?」

「ほっとかれた」

「ほっとかれた? 放置プレイ?どのくらい」

「ん…10分くらいかな。15分、20分くらいかもしれない。」

「目隠しとかされたの?」

「されなかった。逆かも。」

「逆?」

「目の前が鏡があったの。というより、鏡の壁になってたの。」

「それでずっと自分の姿を見ていたわけか。」

「そういうことなるわね。目つぶったりもできたけど。」

「どんな気持ち?」

「それは恥かしいわよ。」

「わざとさせたんだね。」

「そうでしょうね…。」

他人事のように言おうとしながら、語尾を濁すその口調に、何か胸に思い出すものがあるのかと感じられた。そこには性的な興奮もあるのだろうか。

「それで?」

「それでって。」

「恥かしいだけ?」

「そうね…」

まるで、性的な言葉の反応を私が誘導するような形になった。絵里もそれを感じとったろう。少しの沈黙があった。

「あのね、私、イケてるかもしれないって思っちゃった。」

「イケてるって?」

「スタイル。」

「ああ、そういうこと。」

うまくはぐらかされた返事のようではあったが、そこには、また彼女の気持について興味深い点が含まているように思えた。

「いつもよりヒール高くて、伸びしているから背高くて。出るところいつもより出てて。あとランジェリー、ガーターベルトとか自分で見たことのない格好だもの。なんだか自分でないみたいというか、エロチックな女優みたいな。」

そうしたナルシズムの要素は、まさに、絵里が一人で着替えにホテルに戻ったとき、自発的に新しいワンピースや靴、ガーターベルト、ストッキングを着用したことに関わっていたものであった。
また新たなシチュエーションでそれを強く感じたことは不思議ではない。が、縄で淫靡に縛られ拘束されているということも、ナルシズムに繋がっていたのだろうか。
そう思うと、彼女の既知に富んだ返事も、何か危険なものに感じられた。

「そうだね。ウエストとか縄できゅっと絞られてたんだろ。」

「そうね…」

絵里は曖昧な笑みをら浮かべただけだった。

「ぼくも見たかったな、絵里のその姿。」

絵里本人以外にその姿を見ることこができた、というよりそもそも、その姿をさせた小野寺に対する嫉妬が胸を刺した。

「でも、それはねえ…」

絵里も答えようがないだろうといのは分っている。

「ねえ、その下着ほんとに持って帰ってないの。」

「ないって言ったでしょ。」

ワンピースや下着のショッピングの話を絵里がしたときに、すでに質問をして、あちらで与えられたものは一切持っていないと、軽く否定それていた。
それで、絵里の口調に苛立ちが混じる。

「じゃ、ねえ、次行ったとき持って帰ってきてよ。その下着。絵里のものなんだろ。」

「いやよ。」

苛ついたようなきっぱりした口調だった。

「あちらのものは家に持ちこみたくないの。前も言ったでしょう。
それにきみだって実際に目にしたらいい気持しないと思うわよ。」

「そうかなあ…。」

ボンデージスーツについても二人の間で似たようなやりとりがあった。
実際にそれに触れた絵里と比べ、それを想像でしか補えない私にとって、向こうの世界の手の届かないものをなんとか自分の目で捉えたいという気持のほうが勝っていた。
が、絵里にそれを分かってもらうのは無理だと思った。せめてその絵里の姿を写真でもと思うが、それを言うと、例の話題が蒸し返してくることになる。
それは避けた。

「ところで小野寺は何をしてたの。絵里を放置している間。」

「私のほうからは鏡でも見えない位置にいた。テーブルでお酒のロックグラスの音が、聞こえてた。あと時々PCで何か打ってたみたい。」

この後にリンクを送ってくることになる、佳美のサイトデータを私向けに準備しているのではないかと直感的に感じた。
あるいは、それは、絵里を独り残して仕事があると別室に引っ込んだときだったのかもしれない。
もしかしたらそのどちららも。

いずれにせよ、緊縛された絵里を観察しながら、佳美の写真や動画のアップされたサイトを点検している小野寺のイメージは私の頭の中では動かしがたいものとなった。
そして、小野寺がそこで準備している画像や動画は、その夜これから行なわれる絵里とのプレイの青写真ではないか。
かなり忠実なシミュレーションとして、そして私がそう理解するということを見越して、参考資料として私に向けられたのではないか。
最初にその「資料」を見て、漠然とそうではないかと思ったことが、具体的な強い確信のようになっていった。

そして、思い返せば、その確信の強さは、逆に、そもそも佳美の存在がこれからの絵里の青写真になっているかもしれないということについての漠然とした不安を圧倒し、一時的に覆い隠していた。