158. 空白の駒

投稿者: ゆきお

縛られた絵里、その胸といい、腹といい、大腿といい、赤い蝋燭の滴が落ちてくる…彼女の語りから、私の頭には鮮明なその像が容易に浮かんでいた。
それは、絵里のプレイのその夜に私が見た佳美の画像から自然とやってきた。
それは動画ではなく連続写真のスライドショーになっていたがそれで十分すぎるほどだった。

性器を片手で刺激しているまでのところはなかったが、絵里が小野寺に導かれて絶頂に達するその様子を、私は、佳美という女の表情の中に歓喜と読みとれたものを、増幅しながら想像した。

想像とはいえ、自分のパートナーのそんな姿は、本来なら、男の心を直撃し、やり場のない熱のたぎりを渦巻かせるに違いない。
私にも事あるごとにそうした心の動きを感じることは感じた。
しかしすでに、3回のプレーでの語りの中で、それを飼い馴らすことを覚えていた。
それを二人の性の絆を強めるために用いる回路もどうにか獲得していた。

一方、全身に蝋の跡をつけぐったりとし、小野寺に抱き上げられて、バスルームへ行き、そこで、赤子のようになすがままに蝋をはがしてもらう絵里のことは、前までの光景と違い、なかなかその正確な像を結べないでいた。
バスルームでの、二人のこれ以上ないだろうというような親密な様子は、私に手の届かないものだった。
その想像を自分の中でどう処理していいものかなかなか定め難かった。

が、それとは別に、私の心には、既に目にした或る細部が、今や、鮮烈な意味を帯びた。
そして、ずっと追い払えなかった言いようのない胸騒ぎがずしりと重いものになった。

仰向けになって赤い蝋燭の滴を受ける佳美の画像は私に怪しい興奮を与えたが、その中で、左右に開いてそれぞれ一つに縛られた足と手の爪が、真紅のエナメルで彩られていたのは、不思議と印象に残る一つの細部だった。

絵里が3回目のプレイからの帰宅直後、私の知らないうちに落していた赤のマニキュア、そして、落し忘れていたとしか考えられないペディキュアは、私の中で、不安な連想とともに心の中にわだかまっていた。

ソファで休んだあとのプレイをが蝋燭によるものであったということを、予測したとき、私の頭の中にはその細部の繋がりもあった。

そして予測は的中した。
絵里が、私の予測を知らぬまま、それを明確に確認した。

小野寺が私に見せた「参考資料」の画像や動画は、その日小野寺が絵里と行なうプレイを私にアピールするものであることははもう明白だった。
また、絵里に見せず私だけに向けたものには、特別の意味が込められていることは想像に難くなかった。

SMホテルのホームページと、絵里が唯一送ってきた現場写真に見えた、暗く赤っぽいトーンは、舞台の照明の基調だった。
カンパリという飲み物は、そのトーンにさらにアクセントを加える小道具として選ばれたに違いない。

互いに強めあう一連の推測の中に、赤い爪をめぐる一連の要素がジグゾーの齣となって入っていく。

赤い滴を受けるために体を開く佳美の手足の真紅の爪、そして布団の端から覗いた絵里の足もと、コットンに拭きとられたエナメルの跡、リムーヴァーのアセトンの匂い、そのジグゾーは、現実の要素をも点々と覆っていた。

そして最後、実際に私が目にすることもなく、絵里によっても語られていない駒が、蝋燭プレイを受けている絵里の赤く塗られた手足の爪の像だった。

ジグゾーの中で欠けているその空白の部分は、まわりが全部埋まった今、唯一欠けていることによって、そこを埋めるためのひときわ明確な具体像を、私の想像力と論理的思考力に否応なしに要求していた。