162. 寝つき

投稿者: ゆきお

「ふうっ…」

緊張を解きほぐすように明るい溜め息とともに伸びをした絵里は、その手を頭の後ろに回し、ソファに深く体を預けた。
普段ならどちらかというと男性的な仕草のはずだが、なんとなく別のイメージを重ねてしまうのは私の思い過しだろうか。

それはともかく、話すべきことを大方話しきったという思いからの解放感がその場に漂っていた。
実際に話したのは絵里で、私は聴き役であったが、困難な話しを話し切ることついて、二人の共同作業のようになっていた。

解放感とともに、酔いが回ってきたのを感じた。
絵里は後ろにまわした両手に頭あずけしばらく目を閉じている。

ワインクーラーの中の白ワインのボトルは2本目に入りあと半分ほどになっていた。
グラス二つとも空になっているのを見ると、惰性のように、両方にワインを注いだ。
気配を聞いた絵里は目をあけ、どちらからともなく静かに乾杯した。

「そういえば、この白、駅前の××に2本セットで買うと3割引きで出てたわよ」
「いいね。まだあったら、僕が買っとくよ。」
「ありがとう。」

残り少ない夜の空気を変えるかのように日常の会話が戻る。

「もう寝ようか。」
他愛もない会話が続いたあとに、切り出したのは絵里のほうだった。

「そうだね。」

気 づくとやはりもう午前1時をまわっていた。
そして、酔いは、ほろ酔い加減をやや上まわっていた。
恐らく絵里も。
バスルームに寝支度へ行く絵里の足どりはふわふわとしていた。

私が残りのワインやらグラスやらを台所で始末し、バスルームから寝室に戻ると、絵里はもうベッドに潜り込んでぐったり休んでいた。

酔いのままそのまま眠りにつこうと思ったが変に寝つけなかった。
考えもよく回らないまま、中途半端な気持を過していると、隣の絵里も、そのまま寝入った訳ではなく、半睡のまま寝返りを打ったり、微妙に体を動かしたり寝苦しそうにしている。
この時間から改めてセックスをする気はとても起きないが、何かエロチックな気配を感じる。

しばらくなすがままにしていたが、思い切って抱き寄せ、胸を触ると、びくっというような反応があった。
乳首を摘むと、「あっ」という声が出た。
寝間のロングTシャツの上からそのまま乳首を強く愛撫すると、息が荒くなる。
その声に引き込まれるように、股間まで手を降ろすと、そこはびっしょりと濡れていた。
花弁の間に指を這わせると、「あんっ」と悩ましい声が口から漏れてきた。
驚くほど熱く、そして、夥しく愛液が溢れていた。

眠れないはずだった。
先程の自分の語りのもたらしたものに刺激を受けたのか。

さらに愛撫を続けようとすると、「いや」と、小さく抗う声が出た。
そして、愛撫を逃れるように、体を俯せにした。
俯せにした体はぐったりと重く、そのまま休ませてくれというような怠惰さが漂っていた。
それにも構わず、俯せになった尻たぼの間から手を差し入れると、容易に花弁の間に指が入るくらい、そこは柔らかく開き、そして熱くぬめっていた。

酔いの半分回った心持ちで、愛撫を続けた。
差し入れた人差し指をゆっくりと動かす。
愛撫を逃げる気配も、逆に積極的に応えようと体の動く気配はない。
その代り指に絡みつく粘膜の熱さとぬめりが増していった。

誘われるように、指の愛撫を強めに続けても、明らさまな快楽の声があがることも、いつものように体が反り返って反応することもなかった。
だるそうな腕でいつの間にかかえている枕に頭を埋め、低い呻き声を漏らしている。
半睡のまま、深くどこかへ沈潜していくようだった。

その絵里の状態は私に鋭い欲望を呼び覚まし、そして酔いを一気に吹き飛ばした。
毛布をめくり、寝間着をめくると、ぐったりとしてしているその体の尻を引き寄せて、一気に貫く。

「うっ」と重い声を上げて反応があった。
そのまま荒々しく挑んだ。
だが、背後から組み敷かれた女体は、抽送に反応せず、重いままだった。

ただそれだけだったら、私の欲望は消えていったかもしれない。
しかし、そのだるそうな体から、別様の深い快楽のはっきりとした反応が現れていた。
なされるがままにされて、突き上げるたびに、枕に埋めた口から、重い呻きが漏れていた。
ペニスで突きあげられた内部が接触の面積を柔らかく広げていくのを感じた。
尻だけがゆっくりと上り、突き上げらることを静かに迎えていく。
子宮口が下りている感触があった。

絵里が帰って来た日の、あの今までになかった反応と同じものだ。

本来なら手放しの叫び声になるような腹からの息を伴なう呻きが、堪えているからか、それとも枕によって抑えられているからか、「うっ、うっ」「うふ、うふ」というようにしじゅうくぐもったもになっている。
快楽を堪えているというより、そうやって、より深い快楽に沈潜しているのではないのか?

胸の中に何かが広がり、突き上がり心を抉る。
その苦しさを欲望に代え、腰を打ちつける私の動きはほとんど暴力的になった。
そして、それになすがままに反応する女体。

先ほどまで二人の間の言葉と視線のコミュニケーションの世界と対極のものが暗い寝室を支配していた。
性の技巧への反応によるコミュニーションの世界もそこにはなかった

二匹の動物の交合の運動の世界。
粘膜の接触と、お互いがそれぞれ感じているだろう快楽だけだけがあった。

粘膜の濃密な接触による快楽を感じながら、それと分離したところで、私の頭は遠くの絵里の姿、佳美の姿を思い浮べていた。
くぐもった声で反応する自分の下の女の身体は、その粘膜以外には、むしろ、遠いところにある何かの借り物の物体にしか見えなくなった。

体だけが反応し、深いところに潜っている絵里の意識は果してどこをさまよっているのか。
やはり今この時の交わりと分離し、どこかにいるのではないか。

粘膜の壁を抉るようにストロークを大きくし加速していくと、それさらに呼応するように、ペニスの尖端に触れる部分が膨らむ動きが出てきた。
子宮口がさらに下りてくるのが感触でわかった。

少くともその同じところに向かう反応において、そしてそこにおいてのみ、二人の肉体の交感は成立していた。

それを感じながら、快楽の高まるまま、一気に精を吐き出した。

ゆっくりと身体を離し、崩れるようにベッドに沈む私の隣で、女の身体はそのままけだるく俯せになったままだった。
大きめの息づかいがお腹をゆっくり上下させているのは、快楽の証しなのか、それとも深い眠りなのか。

その息づかいを遠い子守歌のように感じながら眠りに落ちた。