164. 追加附則条項

投稿者: ゆきお

昨夜の情熱的なセックスへの純粋な感慨を、わざわざ苦さを伴う憶測で曇らせるのは止めようと思った。
が、その代り、今朝の絵里の出発前の小さな一件の意味に考えが向く。

絵里は4度目の出発をいつもにまして淡々とこなしていった。
今回はいつもより遅くれて出ていいということで、なおさらに余裕のある態度さえ見えていた。

私よりずっと早く起床し、ゆっくりとシャワーを浴びたあと、いっしょに朝食をとりながら絵里が言った。

「今日ね、ちょっとだけ遅く出てだいじょうぶなの。」

「遅い便ってこと? でも、同じ便って言ってたよね昨日。」

「便は同じだけど、空港までタクシーで行くから。といっても20分くらい遅いくらいかしら。11:30にタクシーを予約したの。」

「ほう。」

前回のプレーで予定より遅い便になったとき、空港からタクシーで戻ってきたことを思い出した。

「タクシーに味をしめたのかな。」

「そうね…。やっぱり楽だわ。こういう時。」

「タクシーっていくらくらい? 」

「5千円くらいかな…」

私の貧乏くさい考えを察知したかのように、

「これ。」

そういって絵里が、差し出した紙は、書類のような見掛けをしていた。
タイトルを見て一瞬ギョッとした。

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追加附則条項 (平成○○年4月○○日)

平成○○年1月○○日、小野寺武(以下甲)と浅田絵里(以下乙)の間に締結されたSMプレイ契約書第7条を補足するものとして、附則11条の規定に基き、附則第6条のBとして以下の条項を追加する。

附則第6条のB
(1) 甲が乙に手配する航空券はファーストクラスとする。
(2) 羽田空港と乙の自宅の間の移動に要するタクシーあるいはハイヤーの料金を甲が負担する。

平成○○年4月○○日
甲 小野寺武        乙 浅田絵里

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