173. 変奏の行く方2

投稿者: ゆきお

新たな画面に切り替わった。
床の上に仰向けになった全裸の女を斜め上から俯瞰している。
佳美だ。

先ほどまで着衣だった女性のそんな姿にどきりとする。
それも、単なる仰臥ではなく、両の手でそれぞれの側の足首を掴み、膝を曲げた屈曲の形で、大きく股を開いている。
無毛の股間が否応なしに晒されている。

これまでもそうやって拘束された姿は静止画や動画で見てきたが、ここでは、縄も拘束具もなく、自らその態勢をとっているのがいっそうの淫靡さを漂わせる。
全裸で、首に真赤な首輪だけが嵌められている。
リードは何もない。

目はずっと閉じている。
うつろな表情にかすかな紅潮が加わった雰囲気は同じだ。
そのまま続く数十秒が、こちらにもひどく長く感じられる。
その表情に見えるのは諦念のようにも、緊張のようにも、期待のようでもある。
それらの間をかすかにさまよっているようにとも。

少し疲れてきたのか、自ら足首を掴んで広げた脚にかすかな震えが見えてきた。

乳房の上部に赤い蝋燭の滴がぽつんと垂れた。
ぴくりと身体全体が緊張し、腹筋が動き、脚を掴む手にも力が入る。
つぶった眼が瞬さらに強く閉じられる。
が、それ以上大きな動きはなく、態勢はほとんど元のままだ。

ふっという息遣いの気配があるだけで、前の動画のときのように叫び声が上がることもない。
またそれを必死に堪えているようすもない。

ぽつりとまたまた蝋の滴が場所に近いところに落ちてきた。
時間をおいてまた一滴。

反応は同じだ。
注意深く観察すると、ふっと息を呑んだあと、ふるふるとゆっくり呼気を吐いている様子が伝わる。
身体はむしろ弛緩していく。

乳房に落ちる滴がしだいに乳暈に近づいていき、そしてもう片方に移動しても、そのようすが続いた。

落下してくるときの一瞬の緊張のようすもなくなってくる。
蝋の熱さをゆっくりと身体の奥で受けとめているようだと思った。

乳房の右、左と赤い蝋の跡がゆっくり増えていく。

蝋が落ちるたびに閉じた眼で悩ましげに眉をひそめるようすが、官能的だ。

白い肌に赤い首輪、それと色を合わせたかのような赤い口紅、増えていく赤い蝋の跡が鮮やかな対比を作る。
そして、折り曲げられた下半身の足首を掴んで食い込む両の手の爪に塗られた赤いネイル、足の爪先にも同じ色。
表に現れた女の体の反応が静かなだけに、色彩のショーの側面がはっきりと見える。

蝋が乳暈や乳首の落ちとき、一瞬ピクッと体がこわばるが、それも次第に微かとなり、反応は柔らかなものに戻る。

赤い滴が下腹部に移動する。
息遣いが大きくなる。が、呼吸は荒くなるというのではなく、ゆったりとした波のような下腹部の動きによって、それは伝わってくる。
広げられた両腿の内側に落ちるとき反射的に閉じるような動きが一瞬あったが、逆にゆっくりと前よりも開かれ、落ちてくるものをまるで歓迎するかのような体勢となる。
訓練されている…そう思った。
いや、調教というものか、これが。
こうした反応になるためのいったいどのくらい蝋のプレイがくり返されれたのか。

蝋が新たに敏感そうな場所に落ちるたびに、緊張感が走る気配があるが、そのたびに新たにそして前よりも深く静かな弛緩となっていく。

眼を閉じた表情は、今や、蝋の滴りにも直接反応しない、穏やかなものとなっている。
閉じられてはいるが、緩んだ瞼が今にも薄目を開きそうにも見える。
既に見た、以前のものであろう蝋のプレイの別の動画で、蝋が落ちるたびに、ぎゅっと必死に固く眼を閉じて、顔つき全体が硬ばった皺で崩れるくらいになっていたのとは、同じ人間とは思えないほどの大違いだ。
うっうらと開いた唇の両端が、柔和に緩む両の頬で左右に引かれ、薄い微笑みを浮かべててさえいるかのようだ。
体内を流れる法悦の状態の状態に身を任せ、漂っている…そう見えた。

蝋燭ひとつでこういう状態になるのか。
SMもののAVの中で半ば定番のよういんなっている蝋燭プレイの動画はいくつも、そして絵里の「契約」が始まってからも何度も見たが、その中で女たちは熱さにわななき、苦痛に顔を歪め、あるいは泣いていた。
そしてそこから施すほうも施されるほうも快楽を得ているというふうなものしか見ていなかった。
これほど内面的な深い充足した快楽のさまを示す情景は見たことがない。

そんな光景を驚きとともに見ていると、佳美の身体の反応が温和な連続的状態を脱し、息遣いの動きが一際大きくなってきた。
どんどんと大きくなってくる、そのまま達するのだろうかと思ったら、こんどはその大きく息をしている状態が何十秒も続いている。
ゴールはどこにあるのか。
そう思ったとき、画面が切り替わった。

ブラックアウトすることなく切り替わった画面は、先ほどのものの続きと周りの情景や画質の色づかいから感じられた。

佳美はこんどは、四つん這いで高く尻を上げた姿勢になっている。
投げ出されたように伸ばされた上腕部と頭が床についている。
正確に言うと、頭は直接に床にではなく伸ばされた腕の一つの上に、顔をこちら側に向けるように置かれている。
そのおかげでカメラはその顔の表情を捉えている。

尻にはすでに蝋の跡があり、上のほうの見えない場所から垂れてきている。

前から行くか、後ろから行くか、という質問の意味が改めて理解できた。

蝋の滴は、先ほどの「前」に対するものより頻繁に垂れてきているが、女の反応は先ほどと同じく静かなものだ。
似たような緊張を欠く表情でそれを受けとめいる。
が、表情のニュアンスはまた少し違う。

眼は半開きになり、どちらかというと呆けたような虚ろな顔に見える。
口元も先ほどより緩み、半開きとなっている。

身体は、ぐったりと投げ出された肩から先と高く上げられた尻の矛盾した状態で、脆い安定を保ちながら、わずかに揺ぎ以外にほとんど動きはない。
状態の変化を示すのは、次々と降ってくる蝋の滴の作る赤い地図の広がりと、表情のゆったりした変化だけだ。

時間がたつにつれ眼がどんどん開いてくる。
視線の虚ろさがそれとともにますます窺える。
今やはっきりと開いたその眼は、顔の向きによって自然と定めれた斜め下の床の上に視線を投げかけているが、何かを見ているふうではもうない。
緩んだ口元からは透明な液体が一筋垂れていく。

先ほどまでの情景で、佳美の表情は、意識が内面の法悦に沈潜し漂っていることを窺わせていたが、今は、もうどこか違う世界に行ってしまった状態を感じさせる。

背中の上下によって見てとれる息遣いが少し大きくなってきた。
が、それは増幅されず、その状態が続く。
と、開いた口もとがわなわなと動き、歯がカチカチとなっているように錯覚させる動きとなり、30秒ほど続いたと思ったら、尻を上げた状態から頭が前のめりに滑るように、そのまま力なく崩壊した。

それより前の蝋燭のプレイでは、身体の痙攣で、エクスタシーに達した様子、その瞬間がはっきりと分かったが、痙攣も硬直さえもなくただずるずると崩れ落るその様からは、果してそこに絶頂があったのか、それとも体力の限界に達し消耗して崩れ落ちたのか、私にはもう判断がつかなかった。
少なくとも最後の口元のわななきが、絶頂のようなものを示していたのであろう。

伸ばした両手の間に顔を埋めてうつ伏せに崩れおち、ぴくりとも動かない女の身体からは、意識があるのかどうかさえの判断できない。
息とともに背中がかすかに上下しているのが見えなかったら、死んでいるのかと心配したほどだ。

考えてみれば、しかし、彼女がそこで使った肉体的なエネルギーは大したものではない。

自身の運動はほとんどなかった。
苦痛も失神にいたらせるような過酷なものでなかったことは、むしろゆるやかな喜悦を味わうようなその表情が示している。
反応の帰結は、その穏やかな外見の下、彼女の中に流れ、渦巻いた性的なそして精神的なエネルギーの大きさのほどをうかがわせるものだった。

「蝋燭プレイ」というやや滑稽な響きさえする言葉からは私には想像もできぬ、ただものでない深い世界の存在がつきつけられている、と感じた。

動画が完全に終り真っ黒な画面で止まった。

別ウィンドウで開くことになっているとそれを閉じると、目の前には2つのサムネイルがある先ほどの親ページ。
動画が他にないのは明かだった。

もう一度一つめのフェラチオの動画をクリックし、それを最初から見はじめた。
注意してゆっくりと確かめたいことがあったのである。