184. スイートルーム

投稿者: ゆきお

土曜日に現地についてからのことについての絵里は、他人ごとのように淡々と語った。
あまりに客観的に語るので、ときどき私が質問してなんとか感想を引き出すこととなった。
それに基づいた事実を記して行くと以下のようようになる。

土曜日に飛行機に乗る前にメールがあった。

今日はどうしても迎えにも行けないし、迎えに特別のハイヤーを予約することもできなかったので、たいへんすまいないが、自力で移動してほしい、という。
タクシーはかなりの額になり、申し訳ないが立て替えてくれれば、後ですぐに払い戻すからと添えてあった。

空港に到着すると、移動手段について改めて考えた。
空港線の電車も市内往復のシャトルバスもあり、市内まで特にタクシーを使う必然性も感じられない。
特に電車はタクシーなどよりずっと速い。
この契約によるプレイが始まる以前に2度ほど上司と急ぎ足の日帰りの出張をしたことがあり、そのときは電車で移動したので、その快適さも知っている。
ここは無理してタクシーを使うこともないと考えた。
一時的にせよ出費をするのがもったいないというより、一人で電車で移動したほうが自由な気持ちがして、電車に決めた。

「二人部屋で小野寺の名前で予約してある。自分はまだいられないけど、先に入っていてくれ、チェックインの手続きは済んであり、小野寺と言えば、すぐにキーを渡してくれるだろう、部屋番号は×××。必要ならそれで確認してくれ」というメールが、電車にいる時に入ってきた。

駅からホテルまでは歩ける距離だった。
初めて指定される場所で、最初2回泊まった名門シティホテルでも、前回のビジネス系でもなく、主に余裕のあるリゾート客をターゲットにした新興の高級ホテルだった。
今まではシティホテルやビジネスホテルでは体裁を気にしてか別部屋でとってあったが、今回はおおっぴらに同宿ということで緊張する。
フロントで「小野寺です」と名乗ると「承知しました。xxx号室、小野寺様ですね。」と復唱しただけで、鍵を渡してくれた。

キーを手にして行った先は、驚いたことに、最上階のスイートルームだった。
扉を開けて一歩入っただけで、異質な世界という豪華さがある。
女性のリゾート客を狙ったデザインになっていて、「ああいうキッチュさって、一歩間違うとラブホテルみたいな感じにのるのよね」と絵里は言う。
そう言いながら、「私の趣味ではないけど、自分じゃどうせ泊まれないから、まあそんなに悪い気はしない」とも付け加える。

「すごい高いんだろうね。」

「あとで値段表見たけど二人ぶんで一泊10万円ちょっと」

「ええ!? 10万…」

「でも地方都市だからそのくらいで済んでると思うわ。都心だったらとてもそんな値段じゃ済まない。高いといえば高いけど、全体の質に比べたら法外でもないと思う。まあ自分じゃ払えないけどね。」

絵里の経済感覚は少しずつ変っていっているのでは…。

部屋に入ったらすぐにメールしてくれと、先ほどのメールで言われていたので、その旨報告すると、すぐに折り返し返事がきた。
これからのことについて書かれたメールで、長さから見て最初から用意されたものだと思った。

一つ一つの文は簡潔で、それだけにいっそう指令という趣きが滲み出ている。

メールの内容は、概ね次のようなものであった。

- プレイは17:30から、いつものホテルで行なうのでそのつもりで。
- 落ち合う方法については1時間前、16:30ごろに改めて指示する。
- クローゼットの中に、何着かのコーディネートできる服のセットがある。下着のセットや靴も同数。それとアクセサリーも各種ある。それら身に着けてきてもらうので、出かける前までに、自分なりに何をどう着ていくか考えておくこと。
– コート以外は、服、下着、靴、アクセサリー等、東京から身に着けてきたものはすべてホテルに置き、クローゼットにあるものだけを身に着けていくこと。
- プレイに必要なものを入れたバッグが、クローゼットにあるので、それを持ってくること。バッグは、ホテルでプレイのために自分が開けるまでは、開いて中を見てはいけない。
- 携帯、パス、化粧品など身の回り品は、バッグといっしょにおいてある揃いのショルダーポーチに入れ換えてくること。
– 待ち合わせの場所まではタクシーで10分ほど。仕度して出るまで時間に余裕があれば、その時間は自由行動で、外出してもよいが、常に電話とメールは受けられるようにしておくこと。特に16:30のメールには注意。
-以上。

読み終って携帯の時計を見ると16:30までには、あと1時間ほどあった。