185. ブランド

投稿者: ゆきお

まず、クローゼットを開けてそこにあるというものを確認する。
ハンガーに吊された衣服、そして棚に整然と置かれたランジェリー類。
ワンピース、黒のレザーのスカートとレザージャケット。

どんなデザインか正確には私のファッションの知識では即座に具体的に思い浮かべにくかったが、絵里の説明に、更に詳しい説明を求め、自分なりにファッション用語を後で検索するなどして理解したのをまとめると次のようなものとなる。

– 前回買ったペイズリー柄の膝丈のワンピース
– 白の総レースの身体にフィットするやや膝上丈のワンピース
– グレーのタイトフィットの、腰のところにフレアが広がったトップスになってツーピースに見えるタイプのワンピース(「ペプラム・ワンピース」という説明による私の理解)。スカートはタイトで適度な膝上(「このくらい」と絵里が示したところによると、まあ穏健なミニスカートという類いのものだった)。
– 柔らかい素材の黒のレザージャケットと、それに合わせるための選択肢と思われる2着のレザーのミニスカート。1つはタイトで、もう1つがプリーツになったもの。そして、それに合わせるための白のブラウスがあった。

絵里は具体的な描写をするだけで、それらのファッションについて、とりたたて感想を述べなかったが、後で自分なりにこういうものだろうとネットで検索していった写真から判断すると、露骨に挑発的ではなく、レザーのミニスカートを別にすれば穏健といってもいいものだが、何か、例えば水商売系の女性の中でもクラッシーさを装うカテゴリーの人たちの雰囲気に通じるものがあるような気がした。
もっともこれはこの後知りえた情報との相互作用によって強められた観念なのかもしれない。

ランジェリーは、ブラとショーツとガーターベルトのセットが色違いで3つ。
前回の時、買い与えられた淡い紫のもの。似たようなコンセプトで淡い黄色に赤い花柄の刺繍がちりばめられているもの。
レースの黒の素材のもの。
ストッキングはガーターベルトで吊ることを前提としと肌色のものと黒のものの2種。そしてパンストタイプ薄い黒のプレーンのものと、柄のあるものが、いずれも未開封であった。

アクセサリーは、前回の見覚えのある長めのチェーンのゴールドのネックレス、黒いレースのチョーカー、緩く頸にフィットする革紐のネックレスの先にハート形の金色の彫金のペンダントのついたもの。

クリップ式のイヤリングが、これは何故か1種だけで、単純なパールのついたもの。
ピアスをしていない自分に配慮したものかと思われた。
そしてこの種のものにありがちな安物ではなく、金もパールも本物だった。

ゴールドのい細チェーンのブレスレットが2つ。
1つは完全に鎖だけで、もう一つは小さな金の蝶にダイヤのようにきらきら光る石を埋めこんだものがぶら下がっている。

そして靴。
前回の9センチの靴先のシャープなデザインの黒のパンプス。
他の2足も高さは同じくらいで、1足は、サンダルやミュールに近いほどローカットのベージュのもので、足首を囲うストラップがついていている。
もう一足が、最初の黒のものと似たようなデザインだが、光沢のある黒の素材で、そして靴裏が真赤なデザインのもの。
私は少し前にやった翻訳の仕事で、そのタイプの靴のデザインをめぐる裁判の記事を読んだことがあり、赤い靴底という絵里の説明を聞いて「ルブタンのレッド・ソール・タイプのものだねと」絵里に言うと、絵里は、少しびっくりしたような顔をして、「よく知ってるわね」と言った後、「そう。ルブタン。タイプじゃくて、本物だったの。本物のルブタン」と付け加えたのには、その靴の大体の相場をその記事で知っていた私が驚く番だった。

クローゼットの下のほうに置かれた小振りのボストンタイブの黒の革製のバッグ。
それほど目立たないが、向かいあった2つのCの文字から一流のブランドものと分った。
しかし、開けてはいけないと言われているので、手にも触れなかった。
そしてハンガーにかけられた、同じブランドの肩紐つきの小さなポシエット。

「ああいういかにもというブランドものって好きじゃないんだけど、両方とも遠めにはあんまり目立たなくてよかった。全体にLVとかあったらぞっとしないわよね。」というあたりが絵里の自尊心のありかたか。

それにしても、いったいどれほどの金額だろう。
絵里に素朴にそんな感想を述べると、彼女もそれを思ったという。
私には名前を聞いてもそうそう憶えられないが、服もランジェリーも含めほとんどすべてが本物のブランドものだったという。

小野寺が連絡してくるまでの16:30まで1時間ほどあったし、外出までそこからさらに時間があるので、余裕があり、ばあいによっては外を散歩しようかとも思っていたが、一つ一つ見ていっただけでも20分は経過し、それどころではないと分かった。
とりあえず身に着けるもの選択に専念することにした。
ランジェリー以外はとっかえひっかえ、鏡を見ながら着たという。
靴も穿き、広いスイートルームの中を、外出時をイメージしながら歩き周ることもできた。
一つ一つの服についての着たときの気持ちを聞き出したかったが、絵里は「とにかく全部着てみるのにたへんで憶えていない」と返事を避けた。

「着るのに恥かしいということはなかった?」とつっこんでみると「普段よりちょっと勇気のいるのとか、自分の趣味じゃないなというのはあったけど、着れないほどじゃない」と答える。

「でもさ、次のプレイでさ、超々ミニとか、シースルーとか、ボンデージファッションとか、そうだな、セーラー服みたいなのが指定されたらどうするの。それでも従うことになるの。あと2回あるよね。」

「公衆での面前での羞恥プレイは禁じられているから、それにあたるものは拒否できるわね。それに彼の趣味は安心できると思う。」

なるほどとは、思ったが、その信頼感はどこから来るのか。
そしてもしこれからもっと性的なアピールの強い服装を指示されて、絵里が拒否しないとすれば、それは、羞恥心を刺激されることがあるにせよ彼女自身が禁じられた羞恥プレイや露出プレイと考えずに、自らの許容範囲内にあるものとして引き受けたということになる。
羞恥心といのは人により、そして慣れによって変化するものだ。
渋谷や六本木を闊歩する若い女性の中には、普通の女性からすればとても恥しくてできないファッションをしている者たちもいるが、当人たちにとってはむしろ心地のよいものであるはずだ。

それにしても、選択に迷うラインナップであった。
どういうファッションがよいか、16:30ごろあるという次の情報による部分もあるのではないか、そう思いながらあれこれ考えあぐねているうちに、その時間がきた。
小野寺からのメールが入ってきた。