186. お風呂

投稿者: ゆきお

小野寺からやってきたメールは前のものよりいっそう指令の調子が強く次の内容のことが書いてあった。
絵里はこれに関しては説明が面倒だと思ったのか、小野寺のメールをいったん自分の携帯のメモ帳に保存したというものを直接見せてくれた。

– あと40分、17:10には身支度、化粧を全て完了させ、準備が済んだ旨、電話で報告すること。
– その時に、何を着用したかを言う必要は一切ない、むしろ言ってはいけない。相談は受け付けないのですべて自分で決めること。
– 身に着けるものは何を選んでも自由だが、次のことは守ること。
– 東京から身につけてきたものは一切置いていく、それを確実に実行するために、1度全裸になって確認する。
– そのために、仕度する前にシャワーあるいはバス、特に後者を薦める。
– 指輪やネックレスをしていればそれも外すこと。
– 首に着けるアクセサリーは3つの中から必ず1つ選ぶこと。
– イヤクリップは必ずする。
– ブレスレットも必ず。
– アンクルストラップつきの靴を選ばなかったときは、アンクレットも必須。
– どのアイテムも必ず一度は試してから決めること。服だけでなく、靴もランジェリーもアクセサリーも。
– ポシェットの中にリップと香水がある。他の化粧品は自前のものを入れてよいが、リップと香水はそこにあるものを使うこと。
– 17:15にタクシーが来るので、それで直接プレイ用のホテルに行くこと。タクシーが到着したらフロントから連絡がいくはずで、すぐに降りて行けば慌てる必要はない。タクシーの運転手にはホテルの近くの場所を継げてあるので、行く先は、確認されるかもしれないが自分から言う必要はない。
– ホテルには例のバッグを持って一人で入ること。ホテルはそういうケースに対応しているので気後れすることはない。フロントの係とは顔を見ないで話せるようになっている。部屋番号と名前だけ告げればよい。部屋番号は電話した際に告げる。
– 名前は本名ではなくてよいので安心してよい。次のうちからあらかじめ決められたものを告げる。それを以下のものから選ぶこと。
– エリカ、エリナ、エレナ、エルザ、リエ、リエカ。
– あるいはそれ以外の名前を自分で選んでもよいが、上の例で分かるようにエリに少しでも共通する要素がること。
– 17:10に電話する際に、決めた名前を報告すること。
– 以上

「え? それって。」
読み終った衝撃のままに言葉が出た。

SM用のホテルのフロントに一人で、そのうちの一つの名前を告げ、プレイ道具が入っているに違いないボストンバッグを持って部屋にいく絵里の姿を想像し、驚きながら言った。

「…そうなの…」

それ以上言葉が出ないが、私の言ったことを理解しただろうとはすぐわかった。

最初のプレイのときにそのホテルについて調べると、SMクラブのホームページにいくつもいきあたり、その街でそこが出張方式のSMクラブの指定ホテルとして一般的に利用されていることが分かった。
その予備知識があったので私はそれがすぐ理解できたが、絵里もその正確なところまで含めてすぐに分かっただろうか。
少くともなにか屈辱的と感じたのではないか。
が、その感情についてそこで掘り下げて訊くのはやめることにした。

それより絵里は、何を着て、そしてどの名前を選んだのだろうか。

「それで何を着たの。名前は?」

「まずね。お風呂に入ったの。」

「ん?」

「だから、順番に話すから。」

絵里はどうも、小野寺に指示された行動をなぞるように話したいらしい。

「お風呂に入って気分転換したらそこでインスピレーションが湧くと思ったのね。服と靴はもう試してあるから、それからでじゅうぶん間に合うし。」